ヨーグルト編

わたしたちの身近にある発酵食材。
常備している人が多いものの、
その食べ方のレパートリーは意外と少ないかもしれない。

そこで世界の料理に精通する森枝幹シェフが、
アレンジレシピを考案。

自宅の台所から、世界の食卓へ出かけてみよう。

今回のお題は「ヨーグルト」。

栄養価バツグンで“長寿の源”ともいわれるヨーグルトを使った、
ギリシャの万能ソースとは?

ヨーグルトの酸味が爽やかな
「ギリシャ風 ヨーグルトソース
『ザジキ』とチキンサラダ」

posted:2020.10.2

栄養バランスのいいミルクを、乳酸菌の力でクリーミーに固めた「ヨーグルト」。世界ではスイーツとしてだけでなく、料理に使うことも多いとか。今回は、子どもの頃からカスピ海ヨーグルトになじんで育ったという森枝さんが、ヨーグルトでギリシャの味を再現。冷蔵庫にあるお好みの野菜にたっぷりとかけるだけで、異国の風をまとったような絶品サラダに変えてしまう魔法のソースを教えてくれた。

栄養価バツグン
「ヨーグルト」のおいしい話

そもそもの起源は紀元前5000 年頃まで遡り、地中海から中央アジアにかけて人類が家畜として羊を飼い始めた頃に現れたらしい発酵乳「ヨーグルト」。かつてのメソポタミアでは食べものや薬として珍重され、インドではお釈迦さまが口にしたとも伝わっている食べものだ。

ヨーグルトは子を育む“命の水”を発酵させたものだけあって、栄養価もバツグン。たんぱく質、脂肪、糖質などの炭水化物、ミネラル、ビタミン、必須アミノ酸などがバランスよく含まれており、発酵によってそれらが消化吸収されやすい形になっているのも魅力だ。

また、乳酸菌が腸内環境を整えることにより、お通じの改善や免疫アップといった効果でも知られるほか、近年では動脈硬化を予防したり、がんを抑制する効果があることもわかってきている。100gで60kcal程度と低カロリーなのもうれしいところだ。

ヨーグルトは種菌があれば簡単に自宅でもつくれることから、森枝さんも手づくりに余念がない。「最近はココナッツミルクに菌を入れて、自家製ヨーグルトをつくることにハマっています。冷凍してアイスにすると、いいデザートになるんですよ」と話す。

実は、育った家庭もヨーグルトと縁が深かった。幼い頃から食べていたのは、カスピ海ヨーグルトだったという。

「祖父が農学博士で酪農と縁があり、自宅でカスピ海ヨーグルトをつくっていたんです。これが甘くないボテボテしたヨーグルトで、子どもの僕にとってはちっともおいしくなかったんですよ」と笑いつつ、幼少期に幅広くいろんな味に触れられたことが自分の舌を育てたのかもしれない、と当時を振り返る。

世界のヨーグルト料理はなぜ多彩?

「世界に目を向けると、ヨーグルトは料理に使われることも多いようです。僕自身もカレーに入れたり、鶏肉をマリネしたり。水切りをすればフレッシュチーズのようにも使えるので、実は活用の幅が広い食材なんですよ」(森枝さん)

日本ではヨーグルトといえば朝食やデザートに食べることが多いが、その理由はなんだろう? 
「もしかしたら、お付き合いの歴史が浅いからかもしれませんね」と森枝さんは推測する。かつては奈良時代にヨーグルトが「酪(らく)」として食されたことがあったようだが、本格的に日本で民間に定着したのは明治時代からのことだった。

一方、何千年もの時をともに過ごし、もはや熟練のヨーグルト使いである海外のセンパイたちは、チーズ感覚でラザニアやパスタにかけたり、スープに入れたり、甘みを加えてパイに合わせたりと、自由自在に取り入れている。

トルコの食堂でヨーグルトドリンクをつくる女性(写真提供:森枝卓士)

なかでも、国を越えて世界的に人気があるのが、ギリシャの定番料理「ザジキ」だ。

お手軽で味わい深い「ザジキ」

ギリシャ人が好んでやまない「ザジキ」は、ヨーグルトにキュウリやハーブなどを混ぜ合わせたディップソースのこと。ギリシャだけならず、トルコやキプロス、ブルガリア、イラン、アメリカなど、今やすっかり世界のハートを掴んだヨーグルト料理だ。森枝さんが初めてザジキに出会ったのはトルコ料理店だった。

「そのとき、ザジキは熱々の揚げ物に添えられていて、ザジキの冷たさと酸味がさわやかで心地よかった。肉や魚はもちろん、サラダにもよく合いますね」(森枝さん)

ヨーグルトは、牛乳と同様に食物繊維がなく、ビタミンCなども少ないのが唯一の短所。栄養の面から見ても、野菜やフルーツと合わせるのが合理的だ。今回は、このおいしくて栄養満点、かつ低カロリーという、いいことずくめのヨーグルトソースとサラダづくりに挑戦しよう。

「ギリシャ風 ヨーグルトソース
『ザジキ』とチキンサラダ」のつくり方

まずは、ザルにクッキングペーパーを敷き、その上にヨーグルトを入れて水を切るところから。

「ヨーグルトをこの状態にして1〜2時間ほど置くと、驚くほど水が出ます。もし、切りすぎてボソボソになってしまった場合はホエイ(水切りヨーグルトから出た乳清)か水を加え、しっとりとしたクリーム状の食感に戻しましょう」(森枝さん)

続いて、ぬか漬けのキュウリを刻む。この場合、ぬか漬けは浅漬けより古漬けのものがオススメだ。

「浸かりすぎて酸っぱくなってしまったものも大歓迎です。ヨーグルトに混ぜることで、まろやかなコクと酸味に変わりますよ」(森枝さん)

ちなみに、ぬか漬けにした野菜には、米ぬかに含まれる栄養素が浸透している。たとえば、キュウリに含まれるビタミンB1はぬか漬けにすることで約10倍まで増えるとか。しかも、塩分濃度の高い過酷なぬか床を生き抜いた植物性乳酸菌たちは強い防御力を身につけて、生きたまま腸に届きやすくなる。さらには食物繊維も一緒に摂取できるとあって、野菜のぬか漬けはお腹にうれしいことずくめだ。

次に、刻んだキュウリに水切りヨーグルトを加えて混ぜあわせ、ハーブも混ぜる。

「キュウリによってぬか漬け独特の香りが加わるため、ハーブは使わなくても成立します。が、可能ならぜひ準備したいのがディルとミント。これらのハーブは、ちょっと刻んで入れるだけで、ソースの中にさわやかな地中海の風が吹きますよ」(森枝さん)

最後に、すり下ろしたニンニクと塩、オリーブオイルを加える。実は、ここがレシピで最も肝心なポイントだ。

「ヨーグルトは塩味と酸味のバランスを取るのが難しい食材なのです。ニンニクを入れることによって全体の味のバランスが大きく変わるので、ニンニクも塩もこまめに味見をしながら少しずつ足してください。うっかり入れすぎると地獄の味になってしまいます」(森枝さん)

さて、完成したソースは冷蔵庫へ。食卓に出すまでキンキンに冷やしておくのがおいしくいただくコツだ。

一方、サラダの具材はどんな野菜もオールマイティに活用できる。今回は、じゃがいも、ブロッコリー、トマト、パプリカ、赤玉ねぎとともに鶏のむね肉も使って、たんぱく質も摂れるパワーサラダにしよう。

鶏肉は沸騰させたお湯に塩を入れ、お肉を入れて再度沸騰後に火を消し、40分ほど置いておく。しっとり仕上がったお肉はラフなぶつ切りにする。野菜も、細かく切らずにゴロゴロさせるとギリシャの一皿らしくなる。

「『ギリシャ風 ヨーグルトソース ザジキ』とチキンサラダ、完成です!」(森枝さん)

世界で人気の
ヨーグルトソースをいざ実食!

ホクホクと湯気を立てる鶏肉、ジャガイモ、ブロッコリー。その隣にはシャキシャキとみずみずしいパプリカと赤玉ねぎ。彩りも華やかなチキンサラダに、キリッと冷えたザジキをかけて「いただきます!」

「うん、ディルとミントがいい仕事をしていますね」と納得顔の森枝さん。ヨーグルトにぬか漬け、オリーブオイル、それぞれ異なる種類の酸味が重なることで奥行きが増し、そこに清涼感のあるハーブと食欲をかきたてる香りのニンニクが加わってさらに立体的に。

「手順こそ混ぜるだけのシンプルなものですが、実はとても味わい深い。タルタルソースにも似ていますが、低カロリーなヨーグルトなのでたっぷりかけても罪悪感なくいただけます」(森枝さん)

勢いよくサラダをほおばりながら冷蔵庫を眺め、「あっ」と何か閃いた様子の森枝さん。冷えていた「カルピス」を取り出して、ソースにほんのひと垂らし。口に運ぶと、はちみつを足したかのような甘みが加わり、驚くほどロマンチックな風味に。この滋味深いソースがあるだけで、いくらでも野菜を食べられてしまいそうだ。

「今回はサラダに添えましたが、お肉や魚の揚げ物、パン、サンドウィッチなど、気になるものにかけてガシガシ活用してほしいですね」(森枝さん)

冷蔵庫の食材を使って、ヨーグルトの万能ソース「ザジキ」を合わせれば、さわやかな朝食も、ほっこりとした夕食も思いのまま。数千年にわたって愛されているヨーグルトがまだまだ隠し持っている、日本人が知らないおいしい可能性。その片鱗をぜひこのソースで味わってみて。

Recipe

〈材料〉2人分
●ザジキ
ヨーグルト 200g
キュウリのぬか漬け 1本
ディル 適量
ミント 少々
ニンニク 1/4片
塩 適量
オリーブオイル 適量

●チキンサラダ
鶏むね肉 250g
じゃがいも 2個
ブロッコリー 1/4個
トマト 1個
パプリカ 1/2個
赤玉ねぎ 1/4個
〈つくり方〉
●ザジキ
1.ヨーグルトの水気を切る。
2.キュウリとディル、ミントをみじん切りにする。
3.ニンニクをすりおろす。
4.1〜3と塩を混ぜあわせ、オリーブオイルを加える。

●チキンサラダ
1.2リットルの水を沸かし20g(0.1%)の塩を入れる。鶏むね肉を入れ再度沸騰したら火を止め、フタをして40分ほど置いておく。
2.じゃがいも、ブロッコリーをそれぞれ茹でる。
3.1とトマト、パプリカ、赤玉ねぎを一口サイズに切る。
4.お皿に盛り付けて、ザジキを添えれば完成。
森枝幹(もりえだ・かん)
1986年生まれ。調理師専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」で料理の基礎を学び、帰国後は京料理の「湖月」、分子ガストロノミーで有名なマンダリンオリエンタルホテル内「タパス モラキュラーバー」で料理人としての修行を積み、2011年に独立。下北沢の「Salmon&Trout(サーモン・アンド・トラウト)」のシェフを務めた後、2019年11月、渋谷パルコにタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。ほかにフードマガジンの発行や、レモンサワー専門店のプロデュースなど、従来の料理人に枠にとらわれず活動を続ける。父は写真家・食文化研究家として知られる森枝卓士氏。