「白菜漬け」編

わたしたちの身近にある発酵食材。
常備している人が多いものの、
その食べ方のレパートリーは意外と少ないかもしれない。

そこで世界の料理に精通する森枝幹シェフが、
アレンジレシピを考案。

自宅の台所から、世界の食卓へ出かけてみよう。

今回のお題は「白菜漬け」。

乳酸発酵により酸味がでた古漬けが、
爽やかな旨みたっぷりの鍋料理に変わる!?

芳醇な酸味にハマる
「台湾風 白菜発酵鍋」

posted:2021.2.12

ふとした時に食べたくなる「白菜の漬け物」。ただ、残りを冷蔵庫に入れたら発酵が進んで酸っぱくなりすぎちゃった…というのはよくある話。医食同源の国・台湾では、この酸っぱ〜い白菜こそ重宝する料理があると森枝さん。今回は、そんな現地の美食の記憶をもとにした「白菜発酵鍋」をご紹介しよう。一度食べ始めたらもう箸が止まらない。そんな最強の鍋料理を、台湾のムードとともにどうぞ召しあがれ。

縄文人も漬けていた!?
「漬け物」という知恵

和食の基本とされる「一汁一菜」。古くからその「菜」のポジションを担ってきたのが「漬け物」だ。そもそもは春夏に収穫した野菜を冬まで保存するための知恵だった。

塩や味噌、醤油、酒粕、米糠、麴といった多彩な漬け床があり、漬けることで食材の水気を抜いて、保存性を高めている。同時に、漬け床の中では発酵が始まり、乳酸菌が野菜の糖分を分解して旨みに変えてくれる。食べれば、漬け床が含む栄養やミネラル、そして乳酸菌を一緒にとれて、腸内環境を整えたり、代謝を促進したり、免疫力を高めたりといった発酵パワーも期待できるなどいいことづくめだ。

そんな漬け物づくりが始まったのは、なんと1000年以上前。古くは縄文人も簡単な野菜の塩漬けをつくっていたとみられ、平安時代中期の法令集『延喜式(えんぎしき)』には、塩だけでなく味噌、醤油、酒粕などで漬けられた野菜の漬け物がバラエティ豊かに登場する。どうやら平安貴族たちも“漬ける”グルメを楽しんでいたらしい。

滋味深い「白菜漬け」の魅力

「ぼくも漬け物は大好きです。家でもしょっちゅう漬けますよ」と森枝さん。とくに漬けやすいのが、白菜だという。塩をまぶして置いておけば自然に乳酸発酵が始まる。

「漬けてから完成までは約1〜2週間。忘れた頃にできるところがまたいいんです。我が家では、鍋にしたり、ザワークラウトのようにソーセージやお肉と煮込んだりして楽しんでいます」(森枝さん)

白菜には、ビタミンC、ビタミンK、葉酸、カリウム、カルシウムなどの栄養素が多く含まれている。とくに、ビタミンCは風邪予防やコラーゲンの生成を促すとされるため、免疫力が落ちやすい季節こそしっかりととりたいもの。食物繊維が豊富で、なおかつカロリーが低い点も魅力だ。塩漬けにすることで、白菜の栄養と乳酸菌をおいしくとることができる。

さて、白菜の漬け物といえば、ご近所の台湾でも「酸菜(サンツァイ)」として有名だ。森枝さんも、数年前に訪れた台湾で酸菜を使った衝撃の鍋に出合っていた。

“お鍋大好き”台湾人の「酸菜鍋」

森枝さんが、台湾第2の都市・高雄に1週間ほど滞在したときのこと。高級レストランや食材がてんこもりになった市場、妖しくきらめく夜市をめぐり、現地のローカルフードを食べ歩いたという。

「街中ではよく火鍋を見かけました。麻辣鍋に海鮮鍋、薬膳鍋など、あっちではみんな一年中食べているようです。さすがは医食同源の国、体を冷やさない工夫なのかな。しかも台湾の鍋はうまい! ぼくは寄せ鍋だとすぐに飽きてしまうのですが、台湾の鍋はつけダレの種類も多いからずっと食べ続けられてしまうんです」(森枝さん)

夜市の様子(写真提供:森枝幹)

現地の屋台で食べた鍋(写真提供:森枝幹)

そんなある日、めぐりあったのが「酸菜」をつかった発酵鍋だ。発酵鍋といえば日本でもブームだが、現地のお味は?

「めちゃくちゃ酸っぱくて、激辛で! おまけに腐乳を使っていたのか臭みもあって、全体的に強烈でした(笑)。でも、味に起伏があっておいしかった。酸辣湯(サンラータン)麺を想像してもらうと近いかな? あの味はだいぶツウ好みでしたが、白菜の漬け物を使った鍋は自宅でも楽しめます。濃厚なコクや奥深さはそのままに、誰もがおいしく食べられる味を再現してみましょう」(森枝さん)

冷蔵庫のすみで持て余していた白菜漬けが、おいしい金塊に変わる。そんな発酵鍋を森枝さんと一緒につくってみよう。

「台湾風 白菜発酵鍋」のつくり方

「一瞬でできちゃうからよく見ててね!」と森枝さんがいう通り、この鍋の仕込みは10分もかからない。まず、余分な塩を落とすために白菜の古漬けをよく洗い、ギュッと水気を絞ったら3センチ幅に切る。

「漬かりすぎた古漬けほど良い風味が出ます。もし酸味が足りないときは、お酢を少し足してみて。米酢、りんご酢、玄米酢など、どんなお酢でも大丈夫です」(森枝さん)

続いて、スライスした生姜とニンニクを鍋の底に敷き、上から白菜の古漬けを敷き詰める。さらに、斜め切りにした長ねぎ、キノコ類、豚肉といった具材をのせて、鶏がらスープを注げば、あとは火にかけるだけ。

「白菜漬けから旨みをたっぷり含んだ水気が出るので、鶏がらスープは鍋底がちょっと浸る程度の量で大丈夫。白菜漬けが爽やかなので、豚肉はしっかり脂の乗ったものを選ぶのがベストです」(森枝さん)

これで仕込みは完了だ。

「つけダレ」をつくろう

さて、鍋を火にかけながら、もう一工夫。

「台湾では、ごま油やラー油、えび油、酢醤油などいろんな種類のつけダレを用意したり、自分好みのタレをブレンドしたりして食べるのがポピュラー。ぼくらもつけダレをつくりましょう」(森枝さん)

冷蔵庫から調味料と薬味を取り出し、即興でパッと混ぜ合わせた森枝さん。ごま油にみじん切りにしたネギをあえた「ごま油ダレ」、味噌に砂糖とゆず胡椒を混ぜた「味噌ダレ」、ナンプラーにニンニクと生唐辛子、ライムを加えた「ナンプラーダレ」。3つのつけダレができあがった。

白菜を漬けてみよう

ちょっと手があいた森枝さん、「白菜、漬けてみますか! 簡単ですよ」。最初に、まるまるとした白菜を4〜6等分に切り分ける。そして1枚ずつ葉をめくり、塩をまぶす。

「白菜の乳酸発酵がもっとも進みやすい塩分濃度は4%前後といわれます。たとえば1kgの白菜なら、塩の分量は40gくらいが目安。根本の白い部分は厚みがあるため、塩を多めにまぶしておくのが上手に漬けるコツです」(森枝さん)

あとはジッパー付きの保存袋に入れて、余分な空気をぬいて、室温で保存するだけ。

「塩による浸透圧の作用で白菜からどんどん水気が出て、1〜2週間で食べ頃になります。白菜全体が水に浸かっていない時は塩を足して、しっかり水を上げてください。そうすることで白菜が傷まずにすみます」(森枝さん)

さて、白菜を漬け終わると、ちょうど鍋からもグツグツとおいしい音が。ふたをとれば、湯気がふわ〜っ。

「できた、できた! 台湾風 白菜発酵鍋の完成です」(森枝さん)

爽やかな旨みたっぷり。
台湾風 白菜発酵鍋を、いざ実食!

酸っぱい香りに食欲をそそられて、白菜と豚肉を一度にほおばった森枝さん。旨みに身悶えしつつ、さらにつけダレのごま油をまわしかけると……「う〜ん、優勝っ!」。

「白菜漬けのまろやかな酸味と旨みたっぷりの豚。濃厚なのに爽やかで、もう永遠に食べていられる! 今回はたまたま冷蔵庫にあったなめこやえのきを入れたのですが、これも大正解。キノコのおかげでトロみがついてたまりませんね」(森枝さん)

酸味に塩味、そして旨みのギュッと詰まったトロトロの発酵スープは、一度味わえば忘れられない、脳に刻まれてクセになる味。そんな器の中の桃源郷に、つけダレをタラリと落とすと、たちまち別世界があらわれる。中華風、和風、アジア風…タレの数だけ旅ができて、おまけに大人にはお酒とのペアリングという楽しみも。さらには最後の〆も待っている。

「お酒はビールや日本酒を合わせるのもよし、台湾らしく紹興酒というのも乙ですね。ご当地風に楽しむなら、鍋の〆は春雨やおじやがいいかな。台湾の家庭では乾麺でラーメンをつくることもあるそうですよ」(森枝さん)

ハフハフと食べるそばから汗がふきだす。自家製の白菜漬けをストックしておけば、いつでも手軽にこの鍋にありつける。熱気あふれる台湾の空気も一緒に食して、体の火力を高めよう。春はもうすぐそこだ。

Recipe

〈材料〉4人分
●台湾風 白菜発酵鍋
白菜漬け 500g
豚バラ肉 400g
長ねぎ  1本
キノコ類(しめじ1パック、えのき1パック、なめこ1パック)
生姜 1片
ニンニク 2片
鶏がらスープの素 大さじ3
水 300ml

●つけダレ
【A】
ごま油 50ml
ねぎ 大さじ2

【B】
味噌 大さじ2
砂糖 大さじ1
ゆず胡椒 小さじ1/2
水 大さじ1/2

【C】
ナンプラー 50ml
ニンニク 1片
青唐辛子 5本
ライム 適量

●白菜漬け
白菜 適量
塩 白菜の4%
〈つくり方〉
●台湾風 白菜発酵鍋・つけダレ
1.スライスした生姜とニンニク、3センチ幅に切った白菜漬け、斜め切りにした長ねぎ、キノコ類、豚肉を鍋の中に入れ、鶏ガラスープの素を溶いた水を注いで火にかける。
2. つけダレをつくる。
【A】ごま油に、みじん切りにしたねぎを加えて混ぜる。
【B】味噌に砂糖、ゆず胡椒を加え、水でのばす。
【C】ナンプラーにスライスしたニンニク、輪切りにした青唐辛子を加え、ライムをしぼる。
3.鍋の具材に火が通れば完成!

●白菜漬け
1.白菜の葉の間に塩をふる。
2.ジッパー付きの保存袋に入れて密封する。
3.1〜2週間で完成。
森枝幹(もりえだ・かん)
1986年生まれ。調理師専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」で料理の基礎を学び、帰国後は京料理の「湖月」、分子ガストロノミーで有名なマンダリンオリエンタルホテル内「タパス モラキュラーバー」で料理人としての修行を積み、2011年に独立。下北沢の「Salmon&Trout(サーモン・アンド・トラウト)」のシェフを務めた後、2019年11月、渋谷パルコにタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。ほかにフードマガジンの発行や、レモンサワー専門店のプロデュースなど、従来の料理人に枠にとらわれず活動を続ける。父は写真家・食文化研究家として知られる森枝卓士氏。