日本各地にある“レアな”発酵調味料。
「一度は味わってみたい!」
こだわりの逸品をご紹介。
北東に信州、南に三河。そこに挟まる岐阜県東濃地方では、信州の「米味噌」と三河の「豆味噌」がこの地で出合い、長らく「米豆味噌」をつくってきたという歴史があります。まさしく“味噌文化の交差点”なのですが、そこへ麦味噌も加わり、全国的にも珍しい「米豆麦味噌」が誕生し、地元で人気の味となっています。今回は、そんな稀有な味噌をつくり続ける、岐阜県恵那市にある老舗〈マルコ醸造〉の〈三種麹みそ〉をご紹介します。
煮大豆と麹、塩を原料に仕込む味噌。米麹でつくれば「米味噌」に、豆麹でつくれば「豆味噌」に、麦麹でつくれば「麦味噌」になり、旨みが強いのが豆味噌、甘みがあって香りがよいのが米味噌・麦味噌だといわれます。
さて、ここでクエスチョン。例えばこれを全部ブレンドしたら、一体どんな味わいになるでしょう? 岐阜県で100余年にわたって人気を博す〈マルコ醸造〉の〈三種麹みそ〉に、その答えがあります。
創業以来、昔ながらの手づくりと無添加の天然醸造を貫いてきた〈マルコ醸造〉。麹室を見せてもらうと、ロジブタと呼ばれる木箱の中に、米麹、麦麹、豆麹と大豆がずらり。
毎年1月から5月にかけて仕込む味噌は、昔ながらの大きな杉の木桶の中でじっくりと寝かせます。熟成期間は、定番商品の「田舎みそ」で約2年、「百年伝承味噌」で約3年。それ以上にわたって熟成させるのが「大正味噌」で、見た目は限りなく黒色に近く、よそではなかなかお目にかかれないコッテリ感。茶褐色から黒に近いものまで、どの味噌もまさしく“コクの玉手箱”といった風情です。
米味噌、豆味噌、麦味噌が一つになった〈三種麹みそ〉の最大の魅力は、量や火加減を工夫することで、味わいを変えられること。
鍋に湯を沸かして火を止め、この味噌を少しだけ溶かせば、米と麦の甘みや香りがひきたつ上品な趣に。一方、味噌を多めにしてグツグツと煮こめば、濃厚な豆の旨みが迫る力強い味わいへと変化します。
その日の気分やお好みで風味をさらりと変えられるから、いつまで食べても飽きがこない奥深い味噌なのです。
ちなみに、長期熟成によるほのかな酸味は煮詰めれば飛び、たっぷりとしたコクと旨みが残るから、煮込みや鍋物、土手焼きなどにもピッタリ。根菜をたっぷりと入れたみそ汁もおすすめで、根菜によく旨みがしみていきます。温め直しても風味が変わらないのもうれしいところです。
なお、〈三種麹みそ〉は長期熟成によって味がしっかりしています。初めて使うときは、いつもより控えめに、少量から使ってみるのがおいしくいただけるコツです。
「もともとは商売のタネを求めて全国行脚していた初代が、お伊勢参りの途中でおいしい味噌に出合い、その記憶をもとに地元で漬けている米豆味噌に麦を足したと聞いています」
〈三種麹みそ〉のはじまりをそう教えてくれたのは、〈マルコ醸造〉4代目・小木曽智彦さんです。初代の味噌が「これはうまい!」と評判になり、みそ屋として開業したのが1921(大正10)年のことでした。
その後、2代目が製造法の礎を築き、3代目が販路を拡大。国内はもちろん、内モンゴル自治区にもみそ工場を建てるなどして海外でも評判を得ます。しかし、若くして亡くなられたため、4代目の智彦さんは30歳で家業を継ぎました。
「発酵に強い興味を持ったのは、跡目を継いだあとで、大きく体調を崩したときでした。足つぼの先生からアドバイスされたのは『みそ汁と漬物、そしてご飯をしっかりと食べなさい』ということ。えっ、そんなことでいいの? と思いましたが、実際に回復したから驚いてしまって…」
みそ汁も漬物も代々家業として扱ってきたものだったことに、あらためて衝撃を受けたとか。
「ご先祖さまから残してもらったのが、こんなにいいものだったなんて。もっと胸を張って売ればよかった。そう思ったとき、『商品をつくっている』という感覚はなくなり、『日本人の胃腸を元気にしたい!』と強く思うようになりました」
こうして発酵の魅力に目覚めた智彦さんは、より深く研究をはじめ、やがて“熟成”に夢中になります。
「もともと跡を継いだときから、大手企業ができないことをしたいと考えていました。大手ができなくて、自分たちだからできることって何だろう? そう思いながら味噌をじっくり寝かせてみたら信じられないほどおいしくなって、あっ、これだ! と思ったんです」
こうして、効率よく短期間で大量生産する味噌とは一線を画す、長期熟成の味噌づくりに向けて〈マルコ醸造〉は舵を切りました。
「味噌は最大で5年寝かせています。醤油なんて8年も寝かせちゃって。うちには3〜4日でつくれる『茶づけみそ』という商品があって、これが好評で日々の利益をもたらしてくれるお蔭で、味噌たちを長く寝かせていられるんですね。ありがたいことです」
店内には、味噌や醤油、漬物、その他さまざまな食材が所狭しと並びます。一角には「天外天塩」と記された純白の塩も。関連会社の内モンゴル自治区から輸入しているといいます。
「あの地域には海がなく、唯一の塩湖で取れる塩はとても貴重なもの。天外天塩は、本来なら決して外には出回らない幻の塩なんです」
えっ、それがなぜここに? 聞けば、先代が内モンゴルにみそ工場を建てたとき、失業と貧困にあえぐ人々を雇用し、学校を建てるなど地域活性に貢献したことがきっかけだったとか。
「そのことを評価いただき、さまざまなご縁に恵まれて、特例として入手できるようになりました。この塩湖の下には伏流水が流れていて、“にがり”の部分は水に流され、表面の塩には人体に必要なミネラルだけが残ったという珍しいもの。うちの味噌や醤油、漬物などはすべてこの塩を使っています。なじむのが早く、まろやかになり、旨みの邪魔をしないので一度使ったらやめられないんですよ」
100余年の歴史のうちに育まれた奇跡のような商品をいくつも持っている〈マルコ醸造〉。人々の幸せのために挑戦し続けたスピリットが、今も製品に息づいています。
米豆麦のトリオが織りなす世にも珍しい味噌も、手間暇をかけてゆっくりと熟成させた無類の味。このあたたかな味わいを、健やかな体づくりの一つに取りいれてみてはいかがでしょうか。
価格:918円/1kg、1,728円/2kg、4,050円/5kg(税込)
※「摺り(大豆をすりつぶしているタイプ)」と「粒(大豆が粒状に入っているタイプ)」の2種類から選べます。
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