発酵レア調味料

日本各地にある“レアな”発酵調味料。
「一度は味わってみたい!」
こだわりの逸品をご紹介。

透きとおる甘みと旨みに定評。
江戸時代から続く伝統の味〈最上白味醂〉

posted:2024.7.5

みりんといえば、有名な2大産地は千葉県と愛知県。どちらも昔から水に恵まれ、みりんの原料になるもち米がたくさん採れた場所でした。千葉県香取市にあって、利根川とともに発展してきた水郷・佐原(さわら)も、そんな土地のひとつ。

“発酵のまち”とも謳われるこのまちで、江戸時代から続く老舗〈馬場本店酒造〉がつくり続けている〈最上白味醂〉をご紹介します。

【〈最上白味醂〉とは?】

スーパーに行くと「本みりん」「みりん風調味料」「みりんタイプ発酵調味料」など、さまざまな種類が並んでいますが、ここでいうみりんとはホンモノを指す「本みりん」のこと。

みりんの原料はとてもシンプルで、もち米、米麹、焼酎(あるいは醸造アルコール)でつくられます。今ほど精米技術が進んでいなかった時代は、あまり精米されていないもち米を使ったみりんは仕上がりが赤っぽく見えるので「赤みりん」、逆にしっかりと精米されたもち米を使って美しく透き通っているものは「白みりん」と呼ばれて、区別されていました。

〈馬場本店酒造〉が江戸時代から変わらぬ味でつくり続けている〈最上白味醂〉は、そんな白みりんの一種。戦前には「 パナマ・太平洋万国博覧会」にも出品してゴールドメダルを受賞するなど、数々の輝かしい成績を残してきているみりんです。

【〈最上白味醂〉の使い方】

〈最上白味醂〉は雑味やクセがなく、料理のジャンルを問わず使いやすいところが人気の秘密。全国の和食店、洋食店、中華料理店などにも広く使われており、地元ではうなぎ屋さんのタレにもよく活用されるとか。料理人たちからは「煮物の色が美しく仕上がる」「料理としての味を邪魔せず、逆に整えてくれる」と評判です。

家庭では、たとえばカレーの隠し味にすると味に深みを足せたり、パンケーキの生地に少し入れるとふんわり仕上がったりと、さまざまなシーンで大活躍します。

少量でもしっかりと甘みや旨みを感じられるので、初めて使うときはいつもより控えめに。味見をしながら調節するのが、おいしく使うポイントです。

【〈最上白味醂〉のつくり手】

〈馬場本店酒造〉が創業したのは、天和年間(1681〜1683年)のこと。麹屋としてスタートし、5代目が酒づくりをはじめ、江戸後期にはみりんづくりも開始しました。現在は15代目がお店を切り盛りしています。

みりんのつくり方は、もち米をよく精米して一晩かけて水に浸し、翌朝、昔ながらの巨大な和釜の蒸米機(こしき)で蒸しあげます。蒸しあがったもち米は、男性陣が桶で運び、女性陣が熱いもち米と麹と混ぜあわせます。「麹こそおいしいみりんづくりの要」と考える〈馬場本店酒造〉では、清酒づくりで培った技術を生かし、麹は独自の製法で手づくりしているそう。

熱い湯気がもうもうと立ち上る蔵の中を行き交う人々の姿こそ、伝統的な仕込みの風景。

もち米の粗熱がとれたら、再び男性陣が桶で運んで仕込みのタンクの中へ。このとき、ちょうどよい温度で仕込めるか否かが仕上がりの質を左右するというから、腕の見せどころです。

あとは保温をしながら、55日以上タンク内で寝かせます。このとき、高濃度のアルコール液の中で麹たちが働いて、もち米のでんぷんやタンパク質を分解。糖化と熟成が進み、上品で深い甘みや濃厚な旨みが生まれるのです。

「この佐原は昔から水田が多く、ここでとれたお米を発酵食品に加工し、江戸に卸すことによって栄えたまちでした。明治時代には最盛期を迎え、日本酒の蔵だけでも30軒以上、ほかにもみりん蔵や醤油蔵、味噌蔵などがたくさん軒を連ねていたと聞きます」

そう語るのは、15代目当主の馬場善広さんです。

「しかし、戦時中は一時、みりんの文化がぱったりと途絶えてしまいました。戦後、〈馬場本店酒造〉では昔ながらのレシピをもとにみりんの製造を再開しましたが、今では私たちが佐原に残る最後の1社となりました」

馬場さんが家業を継いだのは20代半ばのこと。他酒蔵での修業中に先代の持病が悪化し、若くして歴史ある蔵を率いることになりました。

「日本酒は毎年おいしいものを目指して味を刷新しています。でも、みりんについては先代から『絶対に味を変えるな』と教えられました。というのも、〈最上白味醂〉は全国の料理店で使っていただいている商品。うちの味が不安定だと、お客さまのお店の味も変わってしまうんです」

とはいえ、使う米の質は年ごとに変わるもの。味を変えないためには熟練の技と知見が欠かせません。

「いつも、お米の質を見ながらどのくらい水を吸わせようか、温度管理は適切か、といったことに細心の注意を払います。ただ、そうした見極めは日本酒のほうがシビア。日々の酒造りで鍛えられているからか、失敗したことはありません。ご愛顧くださるお客さまのためにも、江戸の世からずっと変わらない味を、今もこれからも守り続けます」

【〈最上白味醂〉が味わえるスポット】

歴史ある〈最上白味醂〉をご当地で味わってみたい、と思ったらぜひ訪ねたいスポットがあります。〈馬場本店酒造〉のすぐそば〈佐原商家町ホテル NIPPONIA〉のKAGRA棟の中にある、酒造レストラン〈LE UN(ルアン)〉です。

〈馬場本店酒造〉が江戸時代からみりんをつくっていた蔵をリノベーションした場所で、オリジナルのドリンク〈味醂トニック〉を味わうことができます。

〈最上白味醂〉をレモンとトニックウォーターで割った爽やかなカクテルは、キリッと冷えたシュワシュワのトニックを濃厚なみりんの甘みが追いかけてくる、初めての味わい。ちなみに、〈最上白味醂〉は煮切ってアルコール成分を飛ばせば、ノンアルコールのドリンクにもなるので、お子さんやお酒が飲めない人も楽しめます。

江戸時代までのみりんは、夏場になると暑気払いにぴったりの栄養ドリンクとして女性や子どもたちに人気の飲み物だったとか。その後、料理に使ったら味や色ツヤが良くなったので調味料として定着したといいます。

調味料としてもドリンクとしても、自宅に1本あると重宝しそうな〈最上白味醂〉。〈馬場本店酒造〉を訪れた際には、希望者は敷地内の見学も可能とのこと(無料/酒蔵内部は要予約)。小京都ともいわれる風情が残る“発酵のまち”で長年かけて磨かれたみりんの味を、ぜひご賞味ください。

information

〈最上白味醂〉

価格:930円/600ml、1,350円/720ml、
1,520円/1L、2,300円/1.8L(税込)
馬場本店酒造オンラインショップ