発酵レア調味料

日本各地にある“レアな”発酵調味料。
「一度は味わってみたい!」
こだわりの逸品をご紹介。

チーズのような深いコクと複雑味。
幻の味噌玉製法でつくる〈木曽のこうじ味噌〉

posted:2026.1.23

独自の発酵文化を育む、長野県木曽地方。のどかな里山の風景が広がる木曽川のほとりに、創業140年の小さな味噌蔵〈小池糀店〉があります。ここでつくられるのは、全国でも10軒に満たないといわれる、大変珍しい味噌玉づくりの味噌。今回は〈小池糀店〉がつくる〈木曽のこうじ味噌〉をご紹介します。

【〈木曽のこうじ味噌〉とは?】

一般的な味噌は、蒸した大豆に麹と塩を混ぜて樽で発酵・熟成させますが、〈木曽のこうじ味噌〉は違います。ふっくらと蒸した大豆を筒状に固めて味噌玉をつくり、自然の温度でじっくり発酵させるという昔ながらの伝統的な製法でつくられます。

味噌玉づくりの〈木曽のこうじ味噌〉は、ほかにはない独特の風味で、唯一無二の味。例えるなら味噌のなかに芳醇なコンテチーズのような奥深い旨みが感じられ、癖になる味わいです。

【〈木曽のこうじ味噌〉の食べ方】

〈木曽のこうじ味噌〉はみそ汁にするのはもちろん、そのまま野菜などにつけて食べてもいいとのこと。酒のつまみにもってこいです。この味噌と甘酒を混ぜて甘味噌にし、豆腐にかけるのもおいしいそうです。木曽地方の郷土食である「すんき」を使ったすんき汁は、この味噌でつくるのが一番おいしいといわれています。

チーズのようなコクのある風味のため洋食にも使いやすく、グラタンなど乳製品とも相性抜群。餅やパンに塗ってもおいしそうです。地元の洋菓子店では、チーズケーキなどのお菓子にも使われています。

そのほかにも、地元企業や個人店が味噌玉づくりの味噌を使って、味噌せんべいや味噌クッキー、味噌カレーなどをつくっており、〈小池糀店〉でもいくつか販売しています。

【〈木曽のこうじ味噌〉のつくり手】

〈小池糀店〉は1879年(明治12年)の創業。6代目の蔵元・唐沢尚之さんと、工場長である弟の唐沢裕之さんが二人三脚で蔵を盛り立てています。

つくり方は、まず大豆を蒸したらミンチ状に潰し、ぎゅっと筒状に丸めて大豆だけで味噌玉をつくります。この時はまだ塩は入れずに、味噌玉を専用の棚に並べ、2週間ほど室温のままで発酵させます。

すると、微量のたんぱく質分解酵素が働き始めます。表面は空気に触れているので徐々にカビが付着しますが、重要なのは味噌玉の内側。空気のない状態なので、嫌気性の酪酸菌が生息し、この酪酸菌の存在により、味噌に複雑な風味が生まれます。また酪酸菌には腸内環境を整えるなど、多様な健康効果が期待されています。

なお、酪酸菌は塩が入ると生きられないため、普通の製法の味噌には酪酸菌はいません。この伝統的な味噌玉製法でなければ出現しない菌なのだそう。酪酸菌はまだまだ分からないことも多く、現在も研究が続けられています。

発酵した味噌玉は、表面のカビをきれいに洗い落とし、粉々に潰して塩と麹を混ぜますが、昔は塩だけを混ぜ、ゆっくり何年も長い時間をかけて味噌を熟成させたそうです。

というのも、木曽地方といえば、長野県の中でも特に山深いエリア。冷涼な気候で、冬は雪に閉ざされます。昔は米が貴重品で、なかなか簡単には手に入らないものでした。米麹などはさらに贅沢品だったのです。山のなかに住む人々は、たとえ米麹がなくとも、なんとかして味噌がつくれるようにと考え、編み出されたのがこの味噌玉づくりだったのです。

味噌玉づくりが行われるのは春と秋。製造には温度が重要で、暑過ぎると雑菌が繁殖して腐ってしまうし、寒過ぎると必要な菌が働いてくれません。だいたい13℃から20℃くらいがちょうどいい温度だそう。味噌がつくれるのはその期間だけで、自然の温度で発酵させます。2025年の秋は10月半ばくらいからつくり始め、11月の下旬には終わりました。近年は夏が長いため、つくり始めの時期が以前より後ろにずれてしまう傾向だそうです。

仕込んだ味噌は、仕込み蔵よりさらに標高が高く冷涼な気候の木曽駒高原にある味噌蔵にて、天然醸造でじっくり熟成させます。味噌玉状態のときに働いた酵素と、麹の酵素のダブル作用で、たんぱく質をアミノ酸に分解し、よりまろやかで複雑な、豊かな旨みのある味噌になります。昔は丸2年熟成させていたそうですが、近年は夏が暑いので発酵が早く進み、以前より少し早くできあがるそうです。

「自分たちが子どもの頃は、どこの家庭でも普通に味噌玉をつくっていましたが、近年はやっているところがほとんどないので、どこに行っても味噌玉の勉強はできなかったですね。でも人間って、小さい頃に嗅いだ香りって、どこか脳みそにインプットされているんですよ。ここに来て働き始めたとき、すごく懐かしい香りに感じました。ほとんど記憶はないんだけれど、匂いでふっと感じたんですよね」(尚之さん)

〈小池糀店〉の先代は唐沢さん兄弟の祖母。両親は継がず、祖母の引退のタイミングで、兄弟で継ぐことを決めたといいます。それまで味噌のことはまったく知らなかったため、新潟県の味噌蔵へ行って修行したそうです。

味噌とは「各々の蔵でそこにすむ微生物たちが自然のなかでその蔵だけの味をつくりあげていくものであり、そもそも人間が何かするものじゃない」と話す尚之さん。

「最近はそういう天然醸造の味噌づくりが見直されているのはありがたく、地域の伝統的な製法を絶やさず続けていくことは、やはりとても大変なことですが、やりがいある大事なこと」だと語ります。

醸造の責任を一手に担う弟の裕之さんは生粋の職人肌のようで、麹や味噌の品質を厳しく守っています。

「うちの弟はめちゃめちゃ厳しいんです」と尚之さん。「絶対に妥協しない。あの人が最終的にオッケーを言わないと次の工程に進めません。工場長は麹部屋の上に自分の部屋があるんです。だから住み込みで、すぐ様子を見に来られるようになっているんですよ」

味噌玉づくり以外に、決して大量生産ではありませんが、麹や甘酒も手づくりで製造し、販売しています。お正月のわずかな時期だけ、長野の郷土食のしょうゆ豆をつくることもあるそう。

「これがないと年が越せないっていう地元のお年寄りがいるので。つくるのは結構大変だし、時に面倒だなあとも思うけれど、でもなくなっちゃったらつまらないなっていう気持ちもどっかにあるんです。やっぱり食文化ってただ儲かるだけでやってりゃいいってもんではないかなっていう」(尚之さん)

〈小池糀店〉では問屋は通さず、自分たちの商品の行き先がわかる、顔が繋がって食卓が想像できるような商売を心がけています。

また、唐沢さん兄弟は、子どもたちに地元の食文化を伝えるための活動も行っています。味噌づくり体験を実施したり、各地で講演をしたりなどして、味噌玉のことをもっと知ってもらいたいと思っていると話します。

「現代の日本は、自分たちで調味料をつくることをあまりしなくなってしまいましたよね。子どもたちがこの場に来て香りとか触感とか、少しでも何かを感じてもらえればうれしい。それが食育になって、未来につながっていけたらいいなと思っています。職人さんって無口な人が多いですけど、自分は喋ることが結構得意なんですよ。ありがたいことに、あちこちから声をかけていただくことも多く、ちゃんと伝えて行くことは大事だなと思っています」と笑う尚之さん。

全国的にも珍しく稀少で、奥深い味わいの〈木曽のこうじ味噌〉、ぜひ味わってみてください。

information

〈木曽のこうじ味噌〉

価格: 713円/500g(税込)
小池糀店:https://www.koji-miso.com/