日本食の代表格であるすしをはじめ、酢の物や酢漬け、ドレッシングなどにも使用される、定番調味料の一つである「酢」。アルコールを酢酸菌の力で発酵させると酢ができるため、世界中に多種多様な酢があります。日本では日本酒からつくる米酢がポピュラーであり、ワインの産地であるフランスではワインビネガー、ビール醸造が盛んなイギリスやドイツなどではモルトビネガーが主流というように、各国の酒文化と酢は切っても切れない関係であることがうかがえます。
酢の歴史はとても古く「世界最古の調味料」といわれているほど。紀元前5000年頃のメソポタミア南部(現在のイラク周辺)には、酢があったという記録が残っているそうです。干しぶどうやナツメヤシなどから酒をつくっており、同じ頃に酢も誕生したとか。
また、酢は昔から“体にいいもの”として知られていたようで、医学の父といわれる古代ギリシャの医師であるヒポクラテスは病気の治療に酢を用い、古代エジプトの女王クレオパトラは美容を保つために、真珠を酢に溶かして飲んだという逸話もあります。
日本には4〜5世紀頃に、中国から酒の醸造技術とともに米酢の技術が伝来したといわれています。7世紀後半〜10世紀頃の律令制の時代には、朝廷に「造酒司(みきのつかさ)」という役職が置かれ、酒や酢がつくられていました。平安時代の日本の文献「延喜式(えんぎしき)」には、米酢の原料の使用割合まで記されており、これが日本における最古の酢のつくり方の記録とされています。原料の使用割合まで記された米酢のつくり方が記載されており、これが日本における最古の記録とされています。
その後、酢が広く使われるようになったのは江戸時代になってから。酢の製法が全国に広がり、酢を使用した料理も多く生まれました。ご飯に酢を混ぜて押しずしにした「早ずし」が誕生し、その後「巻きずし」や「いなりずし」も次々と生まれました。
糖質を含む原料をアルコール発酵させ、それを酢酸発酵させてつくります。まずは酒をつくるところからスタート。穀物酢であれば米や麦を原料に酒をつくり、果実酢であれば原料となる果実を発酵させて酒をつくります。そこに「種酢」と呼ばれる酢酸菌を加えて酢酸発酵させると、酒のアルコール成分が酢酸に変わり酢ができます。
発酵方法には大きく分けて「表面発酵法(静置発酵法)」と「全面発酵法(深部発酵法)」の2種類があります。表面発酵法は酒に種酢を加えて混ぜ、静かに置いておきます。容器の中で液体が自然に循環して酢酸発酵が進行し、1〜3か月で酢が完成。一方、全面発酵法は機械を使って液体を攪拌(かくはん)することで空気を入れ、酢酸発酵を促します。そのため、表面発酵法よりも短期間で酢ができあがります。
表面発酵法は昔ながらの伝統的製法であり、発酵・熟成期間が長いため、酸味に加えコクや旨み、香りのあるお酢に仕上がります。全面発酵法は大量生産が可能で、酸味がやや強く、淡白な味に仕上がるといわれています。
日本農林規格(JAS)では酢のことを「食酢」とし、製法により大きく「醸造酢」と「合成酢」に分類されます。醸造酢は、米、麦、とうもろこしなどの穀類、果実、野菜、サトウキビ、はちみつ、アルコールなどを原料に、これを酢酸発酵させてつくります。原料により、醸造酢はさらに「穀物酢」と「果実酢」に分類されます。一方の合成酢は、水で薄めた酢酸や氷酢酸に、砂糖や酸味料、醸造酢などを加えてつくります。
酢の薬効や健康への効果は古くから知られていますが、さまざまな機能性があることが近年になって科学的に検証されています。
酢を表す英語「vinegar(ビネガー)」は、フランス語の“酸っぱいワイン(vinaigre/ビネグル)”が語源であり、世界中にさまざまな種類の酢が存在しています。