発酵のぎもん

「短鎖脂肪酸」ってなに?

「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」とは、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖をエサに発酵させてつくり出す有機酸や脂肪酸の一種のこと。健康維持や太りにくい体づくりに重要な働きをすると、注目されている物質です。

腸内細菌がつくり出す代謝物質

腸内には数100兆個もの細菌が生息しているといわれ、その細菌がバランスよく構成されているときが、腸内環境が整っている体の調子がいい状態とされています。腸内環境を整えるためには、腸内細菌そのものが重要ですが、近年、腸内細菌が生み出す物質も重要であることがわかってきました。そのひとつが短鎖脂肪酸です。

そもそも脂肪酸とは、脂質を構成する成分のひとつ。複数の炭素がチェーンのように連なった構造をしており、炭素の数が6つ以下のものが「短鎖脂肪酸」と呼ばれ、「酢酸」「酪酸」「プロピオン酸」などが該当します。

短鎖脂肪酸の役割

代表的な短鎖脂肪酸である、酢酸・酪酸・プロピオン酸の3つはそれぞれが体内で健康維持に寄与し、下記のような働きをしています。

エネルギー源になる

短鎖脂肪酸は大腸の表面を覆う上皮細胞で吸収され、大腸が健やかに働くエネルギー源となります。また、肝臓や筋肉などに働く全身のエネルギー源にもなります。さらに交感神経などに作用し、神経や脳を活性化させるなど、エネルギー消費を高めます。

腸内環境を整える

腸内を弱酸性に保つことで、腸内にある悪玉菌の育成を抑制し、善玉菌が住みやすい環境をつくるのに役立ちます。

腸のバリア機能を高める

腸の粘膜を修復したり、病原菌の侵入を防いだり、大腸の動きを活発にしたりする働きをします。

排便を促す

食べたものを胃に送り込む大腸のぜん道運動を促進して、便通をよくします。

免疫力を調整する

免疫力を調整する「制御性T細胞」の比率を増やし、免疫機能を正常に保ちます。

代謝を調節する

脂肪の蓄積を抑え、代謝を上げてやせやすい体質へ導いたり、脳に直接作用して食欲をコントロールしたり、基礎代謝を高めたりします。

短鎖脂肪酸は増やせる?

短鎖脂肪酸は、お酢や乳製品、ぬか漬けなどにも含まれていますが、食品から摂取した場合、胃や小腸で吸収されてしまいます。冒頭で紹介した通り、短鎖脂肪酸は、特定の腸内細菌(善玉菌)が自ら腸内で生み出してくれる物質です。そのため、善玉菌そのものを増やすことと、善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖などを積極的にとり入れることで、効率的に短鎖脂肪酸を増やすことができます。

善玉菌を増やすためには、善玉菌が多く含まれる発酵食品をとり入れるのがおすすめです。
具体的には・・・
ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物、味噌など

善玉菌のエサになる食物繊維は大きく、「水溶性」と「不溶性」の2つに分類されます。どちらも腸内環境を整える働きがありますが、善玉菌のエサになりやすいのが「水溶性食物繊維」です。
具体的には・・・
野菜類(ごぼう、オクラ、アボカド、ほうれん草、ブロッコリー、大根、さつまいもなど)
海藻類(わかめ、こんぶなど)
フルーツ類(キウイフルーツ、みかん、プルーンなど)

また、オリゴ糖を含む食品も善玉菌のエサとなります。
具体的には・・・
玉ねぎ、バナナ、きなこ、はちみつなど

監修:小泉武夫(こいずみたけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。食にまつわる著書は140冊以上。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。発酵文化の推進ならびにその技術の普及を通じてさまざまな発展に寄与することを目的とした「発酵文化推進機構」の理事長も務める。 発酵文化推進機構公式サイト