発酵のぎもん

「カルピス®」って発酵飲料なの?

国産の生乳(殺菌などの処理がされていない搾ったままの牛の乳)から、脂肪分を取り除いた脱脂乳を原料につくられるカルピス®。脱脂乳に「カルピス®菌」を加え、2回の発酵工程を経てできあがります。

カルピス®菌は乳酸菌と酵母からなる微生物の集合体。カルピス®が誕生した100年以上前から、継ぎ足して受け継がれてきた独自の菌です。

2回の発酵プロセスによって
生まれる「カルピス®

発酵①:乳酸菌による発酵

1段階目の発酵はカルピス®菌のなかの乳酸菌が主に働き、乳に含まれる乳糖を分解して乳酸をつくります。これによりカルピス®独特の上質で爽やかな酸味が生まれます。この一次発酵したものは、カルピス®酸乳と呼ばれます。

発酵②:酵母による発酵

カルピス®酸乳に砂糖を加えて温度を調整し、2段階目の発酵工程に。今度はカルピス®菌のなかの酵母が主に働き、カルピス®ならではの芳潤(ほうじゅん)な香りが生まれます。

こうして2回の発酵により完成するカルピス®は、発酵食品の仲間であり、発酵飲料です。なお、1段階目の発酵を終えたカルピス®酸乳のなかで、特に優れたカルピス®菌を取っておき、次に継ぎ足し使用することで、100年以上もの間、カルピス®菌を受け継いでいるのです。

内モンゴルの発酵乳が「カルピス®」の原点

カルピス®が初めて発売されたのは1919(大正8)年ですが、遡ること11年前の1908(明治41)年にカルピス®の原点はあります。

雑貨商人だった三島海雲が仕事で内モンゴルを訪れた際、長旅で体調を崩してしまいました。そのときに現地の遊牧民に勧められて飲んだ白くて酸っぱい飲み物が、カルピス®の原点である「酸乳」でした。酸乳を毎日飲んでいたところ、胃腸の調子が良くなり、体調もすっかり回復しました。

1915(大正4)年に日本に戻った海雲。当時流行り始めていたヨーグルトを食べてみる機会がありました。しかし、あまりおいしいと思えなかったことから「もっとおいしくて、体にいいものはつくれないか」と思い、内モンゴルで学んだ酸乳の製法を元に改良を重ねました。

そこで生まれたのが乳酸菌で発酵させたクリーム「醍醐味(だいごみ)」。さらに醍醐味の製造過程で残った脱脂乳を乳酸菌で発酵させた「醍醐素(だいごそ)」も商品化しました。そして、海雲がその後も乳酸菌の研究を続けるなかで偶然に生まれたのが、カルピス®の原型です。

たまたま醍醐素に砂糖を入れておいたものを放置していたところ、傷むのではなく発酵が進み、香り高く甘みと酸味のバランスのいい飲み物となっていたのです。この偶然の産物をもとにさらなる研究と試行錯誤を重ね、これまでにない新しい飲み物としてカルピス®は完成しました。

※「カルピス」「CALPIS」はアサヒ飲料(株)の登録商標です。

監修:小泉武夫(こいずみたけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。食にまつわる著書は140冊以上。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。発酵文化の推進ならびにその技術の普及を通じてさまざまな発展に寄与することを目的とした「発酵文化推進機構」の理事長も務める。 発酵文化推進機構公式サイト