乳酸菌、麹菌、酵母などの微生物は、自らの生命活動のなかでエネルギーを得るために炭水化物やたんぱく質などの有機化合物を分解して、さまざまな副産物をつくり出します。そのなかで人間にとって有益な物質がつくられる現象が「発酵」、逆に人間にとって有害な物質がつくられる現象が「腐敗」となります。
例えば、牛乳に乳酸菌を加えると、乳酸菌が作用して牛乳に含まれる乳糖を分解し、副産物として乳酸をつくります。その結果、独特の爽やかな酸味が生まれ、私たちが日々食べているヨーグルトができます。同時に酸性になることで腐敗菌の増殖を防ぎます。つまりここでは乳酸「発酵」が起こったといえます。
一方、牛乳を常温でそのまま放置しておくと、腐敗菌が増殖し、変な味がしたり不快な匂いになります。これが「腐敗」です。
ただし、微生物の反応が有益と捉えるか、無益と捉えるかは、文化や習慣、個人的価値観によって異なります。16世紀に来日したイエズス会の宣教師ルイス・フロイスがヨーロッパと日本の文化を比較した著書のなかに、「我々においては、魚の腐敗した臓物は嫌悪すべきものとされる。日本人はそれを肴として用い、非常に喜ぶ」という記述があります。つまり、ヨーロッパの人にとって無益である塩辛類は、日本人にとっては有益な食べ物というわけです。
発酵が終わったあとに温度や湿度などが管理された状態で寝かせておくことで、風味や品質が向上することを「熟成」といいます。
例えば、味噌の場合は、まず麹菌が作用する発酵が起こり、その後、麹菌がつくり出した酵素の働きにより熟成の段階に入ります。そして熟成の期間によって、できあがる味噌の色合いや風味、香りが変わります。
熟成によってできあがりのタイプや風味が大きく異なるのがチーズです。チーズは生乳に乳酸菌や酵素を加えて発酵させてつくりますが、熟成中にもともと生乳に存在していた酵素や製造工程で加えた酵素が働き、多種多様なチーズを生み出します。
また、発酵食品でなくても熟成は起こります。それが熟成肉。微生物ではなくお肉がもともと持っている酵素によってお肉のたんぱく質が分解されてやわらかくなり、アミノ酸が増えて旨みが増します。