カカオという素材に着目し、
新しい文化を築く店〈チョコレートバンク〉
@神奈川・鎌倉

posted:2022.10.21

〈チョコレートバンク〉ってどんなお店?

鎌倉駅から徒歩1分もしない、御成通りの入り口に店舗を構える〈チョコレートバンク(CHOCOLATE BANK)〉。2015年、同じく鎌倉に誕生したショコラトリー〈メゾンカカオ(MAISON CACAO)〉の姉妹ブランドです。同店では、よりカカオを深く探求し、新たな可能性を広げるため、クリエイティブで遊び心のある取り組みを行っています。店舗は東日本銀行鎌倉支店の跡地にあり、カカオは古代の南米では、貨幣として大切に扱われていたという歴史からもつながりを感じさせます。

広々とした店内にはチョコレートの良い香りがふわりと漂い、ガラス張りのキッチンから作業の様子をのぞくことができます。ケーキ、デザート、パン、ドリンクなど、カカオを楽しめるメニューが豊富。モーニングやランチにはカカオを使った食事メニューもあります。さらに夜は完全予約制で、カカオ料理のフルコースを堪能できるレストラン〈ROBB〉としてオープン。ほかのどこにもない唯一無二の料理でカカオの新しい価値を伝えています。

こだわりのイッピン

〈チョコレートバンク〉のチョコレートは、すべてコロンビア産のカカオで、現地の生産者と二人三脚で栽培から関わり、クーベルチュール(製菓用の原料となるチョコレート)まで製造しています。コロンビアは国土の南北を険しい山脈が貫いており、その山々の豊富なミネラルを含んだ水のおかげで、肥沃(ひよく)な大地が形成されています。生物多様性にも富んでおり、鳥の種類が世界で最も多いといわれます。

この恵まれた自然環境が、香り高く風味豊かなフレーバービーンズのカカオを育てるのだそうです。フレーバービーンズとは特徴的な香味を持つ最高級品種のこと。世界のカカオ生産量の10パーセント以下といわれ、大変希少なものですが、コロンビアでは、生産量のほぼ100パーセントがフレーバービーンズなのだとか!

店に並ぶ品々を眺めると、チョコレート好きなら目移りしてしまいそうな多彩なメニューで、とても一つには決められません…。そのなかでもおすすめとスタッフに教えてもらったのが、看板商品でもある「バブカ」と、2022年9月1日より限定発売を開始した「フロマージュショコラ」。

「バブカ」は、丁寧な編み込みを施したフォルムがキュートなチョコレートブレッド。クロワッサン生地に徳島の和三盆を合わせたチョコレートを練り込み、一つ一つお店で手づくりしています。ふっくらサクサクの食感と、風味豊かなたっぷりのチョコレートがたまりません。

「フロマージュショコラ」は香りの良いビターチョコレートにマスカルポーネをマリアージュ。やさしい甘みのあるフレッシュでミルキーなマスカルポーネの風味がチョコレートにマッチし、繊細でとろりと滑らかな食感、少量でも食べ応えのある豊かな味わいです。

どんな発酵?

あまり知られていないかもしれませんが、チョコレートは発酵食品です。収穫したカカオの実から種や果肉を取り出し、発酵、乾燥、焙煎(ばいせん)、磨砕(まさい)などの工程を経てつくられます。

おいしいチョコレートをつくるには、カカオの新鮮さも重要な要素だと〈チョコレートバンク〉は考えています。カカオは生のフルーツです。そのため収穫後のフレッシュな状態で素早く運ばれ、現地に数か所ある協力工場ですぐさま作業を行い、クーベルチュールまで仕上げられます。その後、真空状態で空輸されることで、最大限のおいしさを保ったまま日本に届けられます。

そして発酵こそがチョコレートの味や香りの決め手となる、とても大事な工程です。カカオ豆を果肉と一緒に木箱などに入れ、時に攪拌(かくはん)を行いながら発酵させることで、豊かで奥深い風味が生まれます。カカオの発酵は、主に酵母が働く1次発酵(アルコール発酵)と酢酸菌が働く2次発酵(酢酸発酵)の2段階。一般的におよそ1週間前後で発酵するといわれていますが、気候や温度など、地域の自然環境によっても発酵の進み方は変わってきます。

〈チョコレートバンク〉はコロンビアの各エリアの農園と加工場と協働しています。発酵を丁寧にコントロールし、その気候風土に合わせた微調整を行なっています。カカオの素材が持つ力を最大限に生かし、それぞれの地域が生み出す風味をブレンドすることで、30種類以上のクーベルチュールを製造しています。

醸す人

〈チョコレートバンク〉オーナーであり、〈メゾンカカオ〉を立ち上げた代表の石原紳伍さんは、実は以前はチョコレートを食べると体調を崩してしまうほど、苦手な食べ物だったそうです。しかし旅先で訪れたコロンビアで、フレッシュなカカオの果実を味わい、自分が今まで知っていた加工品としてのチョコレートとは全くの別物であることに衝撃を受けました。コロンビアの人々が、日常的にチョコレートを楽しみ、文化として深く根づいている様子にも大きく心を動かされました。

「現地で生のカカオフルーツを初めて食べたときに、こんなにおいしいものだったのかとびっくりしました。コロンビアの人々は毎朝チョコレートドリンクを飲む習慣があり、街にはチョコレートの香りが漂って、当たり前のように暮らしのなかに溶け込んでいた。生産者と生活者がカカオでつながり、決して裕福とは言えないけれど、そこには揺るぎない幸せな日常を感じることができました。カカオの本質をもっと深く掘り下げ、日本でもチョコレートを文化として日常に楽しめるようにできないか、と思ったことがこの事業を始めたきっかけです」

〈メゾンカカオ〉の根底にあるのは、カカオをより深く探求し、その可能性を多様に広げ、文化として伝えていくこと。それを具現化したのが〈チョコレートバンク〉です。創造的で自由で遊び心のあるラボのような存在でもあり、カカオという果実に一層着目し、今までのチョコレートの常識を超えるようなユニークな取り組みを多々行っています。

特に注目なのは夜だけオープンする、完全予約制のレストラン〈ROBB〉。カカオはコロンビアでは昔から料理にも使われていた歴史があり、石原さんはさまざまな食材の旨みを引き出す要素として使えるのではないかと考えました。カカオの豆だけでなく、外皮や果肉など、果実を丸ごと余すことなくいろいろな用途で使い、新たな可能性を見出しています。

カカオと合わせる食材として、石原さんが選んだのは魚。「コロンビアでは主に肉を食べますが、日本人は魚食文化であり、魚とカカオを融合させることで、日本から発信する新たな食文化を生み出せないかと考えました」

そこで石原さんは、一流レストランの多くのシェフからも信頼の厚い、焼津の老舗魚店〈サスエ前田魚店〉で学び、魚の知識と料理の技術を磨きました。漁師から魚店、料理人へと渡されるバトンを受け継ぎ、〈ROBB〉では自らシェフとして真剣に向き合いながら、カカオと魚の今までにないマリアージュを生み出しています。

カカオの発酵から生まれた希少な調味料、
カカオビネガー

カカオの新たな可能性に光を当てる〈チョコレートバンク〉。カカオバターで魚を揚げたり、カカオハスク(カカオ豆の外皮)でだしをとって料理に使ったり、ユニークな取り組みを行っています。店頭で見つけてどうしても気になってしまったのが、この〈カカオビネガー〉。

チョコレートの製造は、カカオの豆と果肉を発酵させるところから始まりますが、そのカカオの果肉をたっぷり使い、発酵によって生まれたのがこのビネガーです。果実由来の芳醇(ほうじゅん)でフルーティーな味わいと、チョコレートの香ばしい風味も感じられる、新鮮で驚きのあるビネガー。

実際に味わってみると、そのおいしさにまたびっくり。炭酸で割ればすっきりと爽やかな味わい、お酒と合わせると複雑で奥深い風味が生まれます。料理や製菓に使うなどさまざまな活用が楽しめそうな、創造力をかき立てられる不思議なビネガーです。

今まで知らなかった奥深きカカオの世界に触れることのできる〈チョコレートバンク〉。ここにしかない、未知なる味わいをぜひ体験してみてください。

※本記事は2022年9月現在の内容です。最新の情報はお店のサイトをご確認ください。

information

〈チョコレートバンク(CHOCOLATE BANK)〉

address:神奈川県鎌倉市御成町11-8 (東日本銀行鎌倉支店跡地)
営業時間:8:00〜18:00 ※モーニング8:00〜10:00
定休日:月曜 (祝日の場合は翌日)
https://chocolatebank.jp/

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