「味噌・醤油・どぶろく」3つの発酵食品と
糀の魅力を体感できる“発酵の聖地”
〈ヤマト醤油味噌 ヤマト・糀パーク〉@石川・大野

posted:2024.10.25

金沢の海の玄関口、大野エリア。JR金沢駅から兼六園のある中心地とは反対方面の海辺へ、10分ほど車を走らせると、古き良き情緒豊かなまち並みが目の前に広がります。大野では前田藩の命を受け、400年前より醤油づくりが始まり、日本の醤油の「五大産地」といわれるほど醤油産業が発展したまち。今も醤油蔵が多く、明治、大正時代の古い建物が建ち並びます。蔵を改装したカフェやギャラリーもあって、ぶらぶら散策するのに楽しいエリアです。

そんな大野のまちの海沿いに、創業110年を超える蔵元、〈ヤマト醤油味噌〉があります。

〈ヤマト醤油味噌〉が運営する、
糀の体験型テーマパーク

橋を渡ると見えてくる、蔵元名が大きく書かれた長い煙突が目印。味噌や醤油の醸造蔵と同じ敷地内に〈ヤマト・糀パーク〉があります。蔵を訪ねてくるお客様に、何かおもてなしはできないかと考え、最初は醤油ソフトクリームの販売から始まりました。北陸新幹線が開通した2015年に正式オープンした〈ヤマト・糀パーク〉には、見て、触れて、味わって、糀の魅力を五感で体験できる、さまざまな施設があります。

最初に体験したいのは、無料で参加できる「糀パークツアー」。スタッフの案内でパーク内を散策しながら、ヤマト醤油味噌の歴史や、糀の基本を学べるツアーです。ちょっと驚くのは〈糀蔵〉で体験できる、糀の手湯(ハンドバス)。

「糀パークツアー」は平日は2回開催(11時、14時)、土日・祝日は3回開催(11時、13時、14時)。

ほんのり温かくいい香りのする糀の湯の中に手を浸していると心地よく、糀がじわっと浸透してくるような感覚です。いつの間にかしっとりすべすべのお肌になっているかも!

発酵尽くしのランチを楽しめる
〈発酵食美人食堂〉

続いて、〈発酵食美人食堂〉へ。こちらは会員(登録は無料)になって予約をすると、発酵尽くしのスペシャルランチ「発酵食美人ランチ」がいただける場所です。献立は季節によって変わりますが、この日は野菜を塩糀で和えたものや、いしる(魚醤)だしを効かせた鶏の唐揚げ、サーモンの塩糀焼きなどなど。ご飯は寝かせ玄米で、おかずのすべてに糀や発酵食品が使われています。みそ汁は具だくさんで食べ応えたっぷりなのもうれしいですね。

「発酵食美人ランチ」のラストオーダーは13:30なのでご注意を。

〈発酵食美人食堂〉では、酵素が生きている糀を使ったメニューを提供し、野菜は可能な限り皮も丸ごと、魚はできるだけ地元県産、国産の旬の食材や伝統製法の調味料をできる限り使用することを心がけているそうです。化学調味料は使わず、天然のだしと、国産原料で無添加伝統製法による自社製味噌、醤油を使用。精白糖、精製塩は使わず、種子島の洗双糖、長崎県産の海水塩を使っています。

水は霊峰「白山」の伏流水。味噌も醤油も甘酒も、すべてこの水を仕込み水に使っています。食堂で出される水、玄米炊きやみそ汁のだし、水出しコーヒーにも、もちろんこの水を使っているそうです。

ランチ営業のあとはカフェタイムになり、「ヤマト味噌汁定食」や「金沢白糀チキンカレー」などの軽食や、糀を使ったデザートとドリンクなどを楽しめます。

食堂は、以前は醤油蔵として使われていたという古い建物をリノベーションしており、クラシカルで味わい深い雰囲気を漂わせています。床材は石川県の木であり、建材としても優れているアテ(能登ヒバ)の木。テーブルは木桶の底板をリメイクしています。棚にさりげなくディスプレイされた醤油差しのコレクションにも注目。ほかにも食堂内には数々の見所があるので、ぜひ注意して見てみてください。

チーズケーキやどぶろくを楽しめるお店も

敷地内には、糀を使った金沢チーズケーキの専門店〈こめトはな〉があります。ケーキはすべて店内の工房で手づくりされたもの。代表商品の「こめはなチーズケーキ」は、地元産のフレッシュな牛乳と、小麦粉の代わりに粉末状の自社糀を使ったグルテンフリーのチーズケーキ。中はしっとり柔らかな食感で、糀の自然な甘みがやさしい味わいです。

食べやすいミニタイプ(写真)とホールタイプがあります。

プレーンのほかに、表面をカリッと香ばしくキャラメリゼした「ブリュレ」や「金沢白糀」「ショコラ」があり、また季節限定でフルーツやお茶などを使ったさまざまなタイプが登場します。

実は〈こめトはな〉のある場所は創業の地であり、古い井戸の跡が残っています。昔は出荷場として、この場所で醤油を販売用の小さな木桶に詰めていたそう。その後しばらく社長室として使われていたこともあったとか。そんな醸造の現場のストーリーを頭に思い浮かべながら訪れるのも楽しいかもしれません。

店内にイートインスペースもあります。

そして、2024年6月にオープンしたばかりの〈金沢天晴山藤濁酒研究所〉は、どぶろくと「糀バーガー」や「発酵おつまみ」が楽しめる発酵酒場です。

「糀バーガー サーモンフライ〜レモン塩糀〜」は店内で仕込んだレモン塩糀を使った、オリジナルのタルタルソースが味の決め手。

海に面した眺めの良いテラス席もあり、晴れた日には白山も見える、とても気持ちのいい場所です!

発酵に必要な3要素である酵母、細菌(乳酸菌など)、カビ(糀)のすべてが関与しているスーパーフードが、味噌、醤油、どぶろくの3つ。〈ヤマト・糀パーク〉では、これら3つの発酵食品すべてを楽しめる“発酵の聖地”を目指して、〈金沢天晴山藤濁酒研究所〉を新たに設立しました。

糀といえばなんとなく和食をイメージしますが、ハンバーガーを提供することで、糀は気軽な洋食としても幅広く楽しめることを伝えたい、とのこと。どぶろくとの意外なペアリングもぜひ試してみてくださいね。

天然醸造の味噌や玄米甘酒は蔵の代表作

〈ヤマト醤油味噌〉は、1911年の創業。初代は船乗りで、金沢と北海道を行き来して事業を始めました。2代目は醤油の醸造、3代目は味噌の醸造を開始し、現在は4代目である代表の山本晴一さん、弟で工場長の山本晋平さん兄弟が、発酵のさらなる魅力や可能性を広げようと日々奮闘しています。

工場長の晋平さんは日本で初めて糀の甘酒の研究で博士号を取った「甘酒博士」でもあります。

〈ヤマト醤油味噌〉が醸造する味噌は、すべて天然醸造。一般的に流通する多くの味噌は、プラスチック(FRP)やステンレスタンクを使うことが多く、醸造期間を短くつくれますが、〈ヤマト醤油味噌〉ではすべて木桶を使って半年から1年以上長期熟成しています。木桶や蔵には〈ヤマト醤油味噌〉独自の蔵付酵母がすみついており、長くゆっくりと熟成することで、まろやかで奥深い味わいがもたらされます。

また、〈ヤマト醤油味噌〉のもうひとつの看板商品は「玄米甘酒」。国産の玄米と米糀のみでつくった糀ドリンクです。やさしい甘みでさらりと飲みやすく、食物繊維が豊富。酵素が生きた生甘酒タイプ、有機の玄米を使ったもの、大麦でつくったもの、加賀棒茶入りなど、さまざまな玄米甘酒があるので、お好みのものを試してみてください。

甘酒は砂糖の代わりに料理にも活用できます。

これらの味噌や甘酒をはじめとした自社商品は〈ひしほ蔵〉に勢揃い。試食もできるので、いろいろと味比べしてみても楽しいです。

世界に広がっていく糀の魅力

「一汁一菜に一糀」は〈ヤマト醤油味噌〉が提案する食のライフスタイルです。和食の基本である一汁一菜は、昔からよくいわれる言葉ですが、そこに糀を加えることで、栄養バランスの良い健康的な暮らしを提案しています。

日本人が何百年と食べ続けてきた和食は、その土地でとれる旬のもの、冬や飢饉を越えるために大切につくられた保存食、そして海や山の環境を守り、自然と共生しながら得たものでつくられてきました。その昔ながらの日本の食文化をベースに、現代のスタイルでよりおいしく食べやすく、楽しく続けられる発酵食生活を、多様な取り組みで紹介しています。

特徴的な活動のひとつが「糀部」。敷地内にある〈キッチンスタジオ〉で、糀や発酵食品の料理教室を行い、美容と健康を考えた食生活の知恵を学びます。味噌や塩糀、体にやさしい糀のおやつづくり、寝かせ玄米の炊き方など、さまざまな講座があり、誰でも参加できる部活動です。

現地まで来られない遠方の人向けのオンライン講座もあります。

代表の晴一さんはアメリカ留学経験があり、日本の発酵食品を世界へ広げようと尽力しました。フランスの三つ星レストランでは生醤油を商品化した〈ひしほ醤油〉が多く使われており、上質な醤油ブランドとしてトップシェフの間で浸透しつつあります。

「ヨーロッパのシェフは、時間をかけて熟成することの大切さ、醸造の本質的な意味を理解してくれます」と晴一さん。

〈ヤマト醤油味噌〉の商品は世界13か国に輸出され、海外での売上は20%にもなるそう。

「でも海外へ行けば行くほど、金沢っていいなとあらためて思います。金沢のいいところをもっとたくさん知ってもらいたい。この土地の歴史や食文化に親しみ、もっと楽しんでほしいというのが私たちの願いです。この場所ができたのも、そんな思いが発端になっています」と話します。

晴一さんの息子である耕平さんも、祖父や父の背中を追い、現在同社の営業を担っています。全国各地の醸造家をはじめ、おもしろい活動をする多様なジャンルの人々とのつながりを広げ、発酵文化を盛り上げる裏方のような存在です。

〈金沢21世紀美術館〉で開催中(2024年9月21日〜12月8日)のイベント「発酵文化芸術祭 金沢 ―みえないものを感じる旅へ―」にも力を注ぎました。

「例えば海外でクラフト味噌をつくりたいっていう話もあったりして、発酵の世界は今おもしろい動きが多々出ていると感じています。僕たちは次の世代に向けて、質を高め、どうやってつなげていくのか。多額な設備投資もしないといけないし、自分たちで日々見極めて動いていかないといけない。いろいろと大変なことも多いけれど、醸造家ってみんな基本的に明るくて元気なんですよね。なぜかというと、腸内環境が健康だから(笑)。彼らが仲間としてつながっていることは心強い存在です」(耕平さん)

糀の力と山本さん一家の明るい人柄が生み出す雰囲気に、たくさんの元気を分けてもらえそうな〈ヤマト・糀パーク〉。糀と発酵を存分に楽しめる場所です。ぜひ訪ねてみてください。

information

〈ヤマト醤油味噌 ヤマト・糀パーク〉

address:石川県金沢市大野町4丁目イ170
営業時間:発酵食美人食堂11:30~16:00、
こめトはな10:00〜16:30、
金沢天晴山藤濁酒研究所10:00〜17:00、
ひしほ蔵10:00〜17:00
定休日:発酵食美人食堂・こめトはな・ひしほ蔵 水曜・年末年始、金沢天晴山藤濁酒研究所 火・水曜
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/

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