宮城県の玄関口であり中心地である、仙台。JR仙台駅は東北最大の規模を誇ります。駅にはお土産屋さんや飲食店も多くひしめいて、人の往来が賑やかです。駅の西口1階にある商業施設〈tekute せんだい〉内の飲食店ゾーン「tekute dining」に2024年春、〈SENDAI STATION BREWERY Fermenteria〉がオープンしました。Fermenteria(ファーメンテリア)とは、発酵を意味する「Fermentation」に、店舗や場所を意味するラテン語系の語尾「-eria」を付けた、オリジナルの言葉。しかし「BREWERY」ということは醸造所? 一体どんな店なのでしょう。
店を訪ねてみると、こぢんまりとしたスペースに驚きます。四畳半ほどのキッチンはオープンになっていて、窓際の棚には透明の発酵タンクと瓶詰めボトルがずらり。ものづくりの様子を自由に眺めることができます。
発酵タンクはその時によって状態が違い、仕込まれたばかりでお米の形が目に見えたり、ぶくぶくと泡が立っていたり、リアルに発酵の様子がわかるのもおもしろい。実はここは日本一小さな酒蔵でもあるのです。
一見、ここでお酒をつくっているとは思えないお洒落な外観。
ドリンクはテイクアウトのみですが、店の周りは飲食店なので、持ち込み可能なところも多いそうです(可能な店舗は店頭で紹介されています)。Fermenteriaのドリンクを使ったアレンジメニューや、料理とセットになったメニューを用意している飲食店もあります。
〈Fermenteria〉で提供しているのは、ノンアルコールの発酵ドリンクである「ライスブリューミルク」、そして「サケベイビー」と呼ばれる、つくりたてしゅわしゅわの生クラフトサケ(アルコール5パーセント)です。
サケベイビー(左2点)とライスブリューミルク(右2点)。
ライスブリューミルクは、宮城県産米の「ひとめぼれ」を使い、蒸した米を麹と混ぜて発酵させる、甘酒の製法をベースにした砂糖不使用の飲み物。定番の「サワーキスト」は、通常日本酒に使われる黄麹と、焼酎などにも使われる白麹の2種類を組み合わせており、白麹が生成するクエン酸の程よい酸味がすっきりと爽やかな味わいです。
変わり種の「ココナッツ」は、旨みのあるココナッツの風味が、意外にも甘酒のふわっとやさしい米の甘みと相性抜群。絶妙な深い味わいに驚きます。
サケベイビーは、「ひとめぼれ」を60パーセントまで磨いた吟醸タイプ。米の磨きを行わない、いわゆるどぶろくとはひと味違います。どぶろくのもったりとした感じではなく、吟醸酒のようなすっきり感を味わえます。
サケベイビーは、仙台の特産である「ミガキイチゴ」などさまざまな素材を使用。
定番のシンプルな「オリジナル」は、できたてならではのフレッシュな発泡感、ジューシーで自然な甘酸っぱさが心地よい味わい。今までにない新たな味覚のお酒です。
ほかに、季節の素材をブレンドした「シーズナル」や、蔵人たちによる実験的な作品「エクスペリメンタル」などがあり、これらの内容は日々どんどん変わるそうです。8リットルの小さなタンクで超マイクロバッチにつくっているため、いつも同じではなく、何があるのかはその時のお楽しみです。
8リットルの透明アクリルタンクを使い、醸造の様子が一目でわかります。
地元の農家さんが自身で育てた採れたての農作物を持ってきて、「これでお酒を醸してくれませんか」とお願いされることもあるんだとか。ご近所付き合いのようなユニークなコミュニケーションから新しいサケベイビーが誕生しています。
ライスブリューミルクも、サケベイビーもいくつかのサイズの中から注文ができ、専用ボトルを購入すると、次回から割引でボトルに入れてもらえます。
現在、日本酒は製造免許を取ることが大変難しく、〈Fermenteria〉では「その他の醸造酒」というジャンルで製造免許を取得しています。日本酒の清酒は、米、麹、水のみを混ぜた“もろみ”の状態を発酵させ、その白いどぶろく状の液体を搾って、透明な液体にします。日本酒の製造免許がないと、米、麹、水のみのもろみを搾ることや「清酒」と表示することはできません。
米と麹を混ぜて発酵させます。
しかし、清酒といわなくていい分、清酒の規定に縛られることなく、自由な発想で酒づくりができます。スタッフみんなでアイデアを出し合い、例えばさまざまな果物やハーブを使用したり、新しい製造方法を試したり、ここだけのオリジナルの酒をアレンジすることも可能です。
〈Fermenteria〉では、仙台市の秋保(あきう)にできたブルワリー〈グレートデーンブリューイング〉と交流が深まったことをきっかけに、彼らがビールに使っている高品質なホップを分けてもらい、実験酒などもつくりました。ホップの爽やかさとほのかな苦味が絶妙にマッチし、お客様にも大好評だったそうです。
〈Fermenteria〉を立ち上げた代表の伊澤優花さんは、宮城の酒蔵の娘として生まれ、子どもの頃から酒蔵を身近に感じて育ちました。
「酒蔵ってお正月の餅つきをはじめ行事が多いんですよ。蔵人さんも当時はみんな住み込みだったので、よく遊んでもらっていました。みんな大きな家族のような存在です。お酒って、もちろん味も好きですが、それよりも、みんなで杯を交わしたり、人と人とを結び付けたり、コミュニケーションの輪の中にあり、人生を豊かにしてきた、そういう酒文化の精神性が大好きなんです」
お店の前に立つ伊澤さん。
伊澤さんはかねてより、蔵をリアルに体験することは絶対におもしろいコンテンツだと確信していたといいます。そして起業し、日本酒自家醸造キットブランド「MiCURA(マイクラ)」を開発して世界に販売を始めます。日本では、酒類製造免許を持たない一般の人によるお酒の醸造は法律で禁止されていますが、海外では問題ありません。現在は世界中に日本酒づくりを楽しんでいるユーザーがいるそうです。
MiCURAのキット。わかりやすい説明書が付いています。
「MiCURAのユーザーさんと話をしていると、みんな発酵中のもろみや、できたてのお酒の味見をすることが本当に大好きで楽しそうなんです。酒づくりに携わっていなければなかなか体験できないあの味をもっと気軽に提供できないだろうか、と考えて誕生したのが〈Fermenteria〉です」
サケベイビーは、タンクの中で発酵するもろみの初期の味わいからインスピレーションを得て生まれた商品。蔵人だけが知る幻の味を再現した、マニアックな酒でもあるのです。酒に詳しい人なら、酒母の味をイメージするかもしれません。酒蔵に行かなければなかなか経験できない味を、酒蔵側が街に出向いて提供してしまおう、という思い切ったアイデアを実現しています。
店頭ではできたての生酒を提供することが基本ですが、2025年4月にはボトル入りの商品をリリース。オンラインショップやポップアップなどのイベントでも販売しています。
発酵の過程で生まれる天然の炭酸ガスを閉じ込めた、瓶内二次発酵のスパークリング酒
初めて開発した「Fermenteria 瓶内二次発酵Sparkling」は、上品で滑らかな泡が心地よい、できたて生酒とも一味違う繊細な味わいを表現。さらに7月にはホップやビール酵母を用いた「Yeastology」シリーズを発表しています。これは清酒ともビールとも違う「未踏の発酵表現」とのこと。一口飲んでみると、今まで体験したことのない驚きの味わいで、発酵がもたらすおいしさの不思議に出合えます。
〈Fermenteria〉として極小スペースでの醸造と販売が可能であるというビジネスモデルを確立し、今後は他の拠点を増やして行きたい、と伊澤さんは次なる目標を語ります。
「お米って幅広くいろんな素材と相性がいいんです。さまざまな土地でさまざまなローカル素材と出合い、その土地らしいマイクロ地酒を醸していきたい。発酵文化、酒文化の精神性を広めたいです」(伊澤さん)
今までにない、新たな発酵飲料やクラフトサケに出合える〈SENDAI STATION BREWERY Fermenteria〉。ぜひ訪ねてみてください。
address:宮城県仙台市青葉区中央1丁目1−1 仙台駅 1F tekute dining
営業時間:10:30~20:30
定休日:なし
https://fermenteria.co/