千葉県香取市にある、豊かな水に恵まれた水郷・佐原(さわら)。成田空港に近く、東京駅からはバス1本で到着します。江戸の面影を残した町家や商家が軒を連ね、「北総の小江戸・小京都」とも謳われるまちです。
風情あるまちを二分する小野川。川沿いには古い木造建築や蔵、洋館などが残る。
佐原では、米をはじめとする作物がよく育ち、江戸時代から日本酒や酒粕、味噌、醤油といった発酵文化が花開きました。一方、夏になると、まちにはかき氷屋が続々とお目見え。おいしい涼を求める人が全国から詰めかける“かき氷激戦区”となっています。
そんな佐原のまちの中心部、柳が揺れる小野川沿いに佇むのが〈VMG CAFE(ブイエムジーカフェ)佐原商家町ホテル NIPPONIA(ニッポニア)〉(以下、VMG CAFE)。
1855年(安政2年)に建てられた県指定文化財となっている商家を活用した古民家カフェ。
カフェの1階。実際に使われていた金庫や箱階段が残り、150年以上の歴史を感じさせる。
普段は自社栽培のサツマイモを使ったモンブランなど、地元食材によるスイーツが人気の〈VMG CAFE〉ですが、初夏になるとオリジナルの“発酵かき氷”が登場します。
それが〈甘酒&発酵ベリーのかき氷〉。地元のフレンチシェフが考案した、美しい一杯です。
キラキラと輝く夏の雪山をイメージしたという通り、器の上にはふわふわとした綿菓子のような純白の氷が山盛り。シュガーパウダーをかけられた表層にチョコレートの枝が伸びています。
器のそばにあるのは、3種類のトッピング。目の前の雪山を自ら好きな味で飾り、自分好みにカスタムしながらいただけるのです。
この3種類のトッピングは、昔ながらのかき氷でおなじみのイチゴシロップ、練乳、あずきをフレンチ風にアレンジしたもの。ここに発酵のエッセンスがギュッと凝縮されています。
イチゴシロップにあたるのは、発酵ベリーのソース。甘酸っぱいミックスベリー、地元の酒蔵の甘酒でつくったみぞれ蜜、香りのよいバラの花びらを合わせて発酵させた自家製ソースで、奥深い甘みが特徴です。
練乳は、乳酸発酵による爽やかな風味のサワークリームで再現。回しかけるとさっぱりとした味わいに変化します。あずきは発酵食ではないものの、あずきの代わりにレンズ豆を使い、バニラと一緒に甘く炊きあげたこだわりの逸品。氷も、富士純水を昔ながらの製法で120時間かけて凍らせた浜松舞阪氷で、不純物が少なく天然氷に匹敵する品質で知られるといいます。
スプーンを持ったら、まずは氷だけでひと口。舌にのせた途端にとろける繊細な氷で、粉砂糖のほのかな甘みに引き込まれます。3種類のトッピングを雪山に飾りながら食べ進むと、いつの間にか甘酒の素朴な蜜の味もやってきて、さらに中からピリッとした生姜の風味が。フランス料理でおなじみのジンジャー・グラニテ(シャーベット)にちなみ、氷の中に生姜のジュレが入っているのです。
一杯のかき氷の中に秘められた味の多彩さは、スプーンですくうごとに違う世界が開けるかと思うほど。発酵とフレンチの奥深い競演に驚かされます。
〈発酵ベリーのかき氷〉を考案したのは、佐原のフレンチシェフ・天羽️英実(あまうひでみ)さん。美食のまち、銀座・神戸・京都で腕を振るい、現在は〈LE UN(ル・アン)佐原商家町ホテル NIPPONIA〉(以下、LE UN)で活躍中です。
〈LE UN〉は、発酵フレンチと蔵元直送の日本酒のペアリングが楽しめるレストラン。「その時、その土地で、最もおいしいものを食べていただきたい」という思いから、天羽️さん自ら生産者のもとに足を運び、食材を厳選。その土地の風味を生かした“テロワール・エ・ナチュール”もテーマとなっています。
「この佐原において、“その土地ならでは”のひと皿を追求するなら発酵という要素は欠かせません」と天羽さん。
「麹菌は、そもそも日本と東南アジアの一部にしか生息しないユニークな菌で、この佐原でも麹菌を使った醤油や味噌などの発酵文化が根づいてきました。そこで、このレストランでも麹菌による発酵食を多く取り入れています。
ただ、醤油味・味噌味にするということではなく、よく用いる発酵食品は酒粕や塩麹、みりん、甘酒といったもの。あくまで味を豊かにふくらませるために使っているんです」(天羽️さん)
どれもフランスにはない調味料なので、調理しにくいのでは? と尋ねてみると……。
「いえ、意外とそうでもないんです。ぼくも実際に調理していて発見したのですが、たとえば酒粕は、バターやクリームと合わせるとチーズに似た風味に変わるんです。つまり、チーズの代わりに使えるんですね。また、ベースの味付けに発酵食品を用いたフレンチは日本の地酒にもよく合う。発酵とフレンチの相性は上々だと思います」(天羽️さん)
さらに、「地産地消という点にもう一歩踏み込んで、ぜひこの場所にも注目していただければ」と、建物を仰ぐ天羽さん。
〈LE UN〉があるのは、〈佐原商家町ホテル NIPPONIA〉のKAGURA棟。300年以上続く地元の老舗〈馬場本店酒蔵〉が所有する蔵を再生した建築です。
「ここはもともと〈馬場本店酒蔵〉が江戸時代からみりんをつくってきた特別な蔵。あらゆるところにかつての面影が残っています。時を超えて発酵文化を受け継いできた歴史的な場所なので、ぜひ料理とともにこの空間や雰囲気も味わっていただけたらうれしいです」
先にご紹介した〈VMG CAFE〉、そしてこの〈LE UN〉は、発酵の伝統と新たな進化の両方にじっくりと触れられる佐原の美食スポット。食べて、触れて、体感して、心と体をたっぷりと満たして癒すリトリートの旅にぴったりです。
address: 千葉県香取市佐原イ1720 GEISHO棟(カフェ)
営業時間:平日11:00~16:00(L.O.15:30)、
土・日・祝日11:00~16:30(L.O.16:00)
定休日:火曜
※かき氷の提供は土・日曜限定。例年5月1日〜期間限定(終了日未定)
https://www.nipponia-sawara.jp/cafe
address:千葉県香取市佐原イ1708-2 KAGURA棟(レストラン)
営業時間:11:30~15:00(L.O.14:00)、
17:30~22:00(L.O.20:00)
定休日:不定休
https://www.nipponia-sawara.jp/restaurant