発酵インタビュー

発酵に関わる食文化や
商品開発、普及、研究を進める
発酵のプロにインタビュー。

ジャスティン・ポッツが世界に醸す、
日本の発酵文化と麹の可能性

posted:2020.1.31

古民家の縁側に置かれた醤油の仕込み樽の前で、うれしそうに話すひとりのアメリカ人。 彼はもしかすると私たちよりずっと日本に詳しい。日本の食文化を海外に伝え、蔵に籠もって酒をつくり、地域のためにアイディアを捻って、酒や食のイベントで楽しそうに日本酒をサーブする。全国各地で、変幻自在な動きをみせるジャスティン・ポッツさんって一体何者なんだろう?

和食を選んだことがきっかけで、今の自分がある

アメリカ・シアトル出身のジャスティンさんが初めて日本に来たのは大学生のとき。「日本には行ったことがなかったから」という軽い気持ちで日本留学を決め、大阪に滞在した。

一般的なアメリカの家庭で育ったジャスティンさんにとって、日本の食べ物は未知の世界だった。ご飯、味噌汁、焼き魚、ネバネバの納豆、見たこともない色の漬物、さらにアメリカでは基本的に食べない生卵という典型的な日本の朝食さえ、初めて口にするものばかり。味覚的な捉え方も、おいしさもわからなかった。しかし、ジャスティンさんは「未経験の味を、まずいと判断しないようにしよう」と決心し、滞在中の3ヶ月間、日本食を食べ続けた。

「宿泊先の朝食は和食と洋食から選べたのですが、短期間しかいないし、和食を食べてみようと思ったんです。それがまさか今の自分に繋がるきっかけになったとは。今でも、あのとき和食を選んでおいて良かったと思います」

千葉県いすみ市にある〈ブラウンズフィールド〉の縁側に立つ、ジャスティンさん。いすみ市に移住する大きなきっかけとなった場所でもある。

「味噌や醤油をつくるなど、発酵を取り入れた体験やイベントを、この場所で多く提供できたことは貴重な体験でした」とジャスティンさん。

実はジャスティンさんは子どもの頃から原因不明の体調不良で入院することも多かった。しかし、食生活を変えることで体調が良くなることに気づき、自分の体を実験台にしてどれくらい影響が出るのか試すようになっていた。日本食のトライもその延長だったそうだ。

「1か月間、日本食を食べていたら体の調子が良くなってきたんです。今日はあれ食べようかな、と体が欲するおいしさや、食卓に向き合うことの楽しさも知りました」

大阪はジャスティンさんにとって居心地が良かった。外国人だろうと関係なく、おばあちゃんも気さくに関西弁で話しかけてくる。居酒屋が好きになり、毎日通った。気まぐれで日本酒を注文したら、ありかも? と感じたそうだ。

「居酒屋という空間の雰囲気も含めて、これは成立するなと思った。それからは日本酒ばかり飲むようになり、大阪での暮らしが楽しくなりました」

日本人は麹で出来ている?!

発酵食品に興味を持つようになったのは、その後出会った妻の美雪さんの影響も大きいという。お弁当屋を営むご両親の元で育った美雪さんは、小さな頃から料理に親しみ、郷土料理に興味を持つ女性だった。美雪さんがつくるいろいろな地域の料理を通じて、ジャスティンさんも地域の食文化の面白さに惹かれていった。それから日本各地を巡る、食の探求が始まり、日本酒を心からおいしいと感じるようにもなっていった。

旅の中で出合った食の中でも、新潟の農家宅で食べた朝食は特別だった。ご飯、味噌汁、漬物、生卵。日本に来て最初に食べた朝食とほとんど一緒だが、まるで違う。すべてが驚くほどのおいしさで、記憶に深く刻まれた。

やがて、ジャスティンさんは仕事でも各地の生産者や伝統産業と関わるようになり、彼らの会話から「麹」の存在を知る。今から10年以上も前、塩麹ブームの少し前だった。当時、麹の話をする人は誰もいなかったが、ネットで検索するなど独自に調べたという。

「調べれば調べるほど、日本の食文化の根幹は麹なんだと気づかされました」

麹との出合いをきっかけに、ジャスティンさんは発酵にのめり込んでいく。出張の合間も足を伸ばし、発酵に関わるさまざまなつくり手と話した。人懐こく好奇心旺盛な性格で、すぐに人の輪が広がった。麹はすごい、おいしい、面白い。このすばらしさを伝えるために、自分は何ができるのか。夢中になって探り続けた。

ジャスティンさんと、妻の美雪さん、娘さん。©Lance Henderstein

発酵はスーパーサブカルチャー。だから面白い場づくりができる

試行錯誤の結果、発酵食品を含む日本の食文化の良さを伝え、地域を盛り上げるためには、ただおいしいと伝えるのではなく、ローカルに根づいた文化を楽しみながら知ってもらわないといけない。そのための場づくりに日本酒は必要だとジャスティンさんは感じた。

「日本酒は文化だと言われていたけれど、酒の消費量が減っている現代では、どちらかというとサブカルチャーだと思いました。そのサブカル界には異様な熱量の高さ、勢いがあった。それなら、自分ができること、日本酒の可能性はいくらでもあると感じたんです」

日本酒を知るために、きき酒師 や酒匠の資格も取得した。勉強は楽しかったが、頭でっかちになることは何か違うと、モヤモヤした気持ちをずっと抱えていた。

「これだ! と腑に落ちたのは、千葉の酒蔵〈寺田本家〉さんや、福島の〈仁井田本家〉さんに出会ってから。彼らは地域と深く関わり、お客さんと一緒に田植えや稲刈りをして、お祭りを開く。自然に楽しく豊かな暮らしを体験できる試みを行う酒蔵の先駆けでした」

ジャスティンさんは千葉の〈木戸泉酒造〉で蔵人として本格的に酒づくりにも関わっている。彼と、〈木戸泉酒造〉、千葉の〈つるかめ農園〉の協力によって、自然栽培米〈フサオトメ〉を酵母無添加でつくった純米酒〈アフス 源 -minamoto-〉が誕生した。技術を知ることも大切だが、ジャスティンさんが目指したのは、酒づくりを通して地域と接点を持ち、外に幅広い繋がりをつくれる立場になること。また、日本酒の魅力をリアルな体感として伝えることで、酒に関わりたい業界の人たちを繋げることだった。

〈木戸泉酒造〉にて。©+JUU

千葉県いすみ市にある〈ブラウンズフィールド〉の「サグラダ・コミンカ」にて。その改修プロジェクトでつくった五右衛門風呂。

Koji Akademia〉を運営するなかじさんとジャスティンさん。昨年、〈Portland Fermentation Festival〉に出展した。

2018年より、日本酒や焼酎、泡盛の魅力を英語で海外へ発信するインターネットラジオ〈SAKE ON AIR〉が始まり、ジャスティンさんはプロデューサー兼MCを務めている。毎回ゲストを呼び、日本酒について熱く語る。そして2019年は麹についてあらゆることを学べる〈Koji Akademia(麹アカデミア)〉を立ち上げた。これは〈寺田本家〉で元蔵人だったなかじさんが始めた〈麹の学校〉の海外版で、麹や発酵文化を英語で伝えている。ジャスティンさんはニューヨークやポートランドにも出向き、一般の人からプロの料理人まで、それぞれの需要に応じた麹の講座を開催した。

「現地での反応はすごく良かったです。みんな興味津々。麹といえば日本では米が主流ですが、アメリカは違うので、その土地のニーズに合った麹の使い方を指南できるようにしたい。現地の人にも教えてもらいつつ、日々内容をブラッシュアップしています。世界に誇れる日本の発酵って、やっぱり麹以上のものはない。そこから学べることはいくらでもあると思います」

ジャスティンさんのやり方は、正解を伝えるのではなく、可能性を見せる。そこからその地域だけの独自性が生まれ、日本の真の価値も見えてくる。

「麹が旅をして環境とともに変化したら、それもすごく楽しいんじゃないかな。自分も微生物と一緒に発酵していけるようなマインドで行動していきたいです」

ジャスティン・ポッツ(株式会社ポッツ家プロダクションズCEO)
シアトル生まれ。世界初の日本酒&焼酎に特化したポッドキャスト〈SAKE ON AIR〉のプロデューサー兼MC。日本酒学講師、酒匠、きき酒師の資格を所有。2017年に料理人の妻と遊び専門の娘2人で〈株式会社ポッツ家プロダクションズ〉を設立し、活動中。麹を活かした発酵の可能性を学べるプラットフォーム〈Koji Akademia〉を2019年にオープン。
https://www.potts-k.com/