京都府立医科大学大学院医学研究科教授で、腸内細菌研究の第一人者として知られる内藤裕二さん。腸と健康に関する書籍を数多く出版し、メディアでも引っ張りだこの内藤さんですが、2024年8月には最新刊〈健康の土台をつくる 腸内細菌の科学〉が出版されました。病気や老化、肥満、ストレスなど、人間の体のさまざまな問題に、腸内細菌がこんなにも関わっていたのか、と改めて驚くような内容を、一般の人にもわかりやすい言葉で詳しく説明しています。内藤さんが長年にわたって続けてきた、腸内細菌と抗加齢医学研究の最前線を知ることができる貴重な一冊。早速ページを開いてみましょう。
第1章の「私たちの腸内細菌はどこから来る?」では、内藤さんが内視鏡の目覚ましい進化によりリアルタイムで胃腸のなかを覗けることから研究への興味が深まって、消化器内科医を目指したという経緯に始まり、胃腸に存在する微生物の発見と研究の歴史が物語られています。
腸内細菌はオランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフックによって17世紀には発見されていたそうですが、当時は培養の技術がなかったため、実際に研究が始まったのは近代になってから。顕微鏡をはじめとする研究・分析のための機器の進化にも伴い、世界中の医者や科学者によって腸に存在するさまざまな細菌の様子が少しずつ分かってきたことが興味深く紹介されています。目に見えない菌だからこそ、まだまだ謎の多い分野ではありますが、その解明に挑む医師や研究者の地道な努力により、科学は常に進歩を続けてきました。そんな壮大な歴史も感じつつ、楽しく読み進めることができます。
日本人は湯船につかることで、腸内細菌を共有している可能性もあるという驚きの研究結果があるそう。
私たちの腸内細菌は一体どこからやってくるのか。そしてどのように腸内環境ができ上がっていくのか。動物の場合や、人間が温泉で入浴した時の影響など、ちょっと面白い事例を出しながら、イラストやデータも交えて易しく解説されており、誰もが理解しやすい内容です。
第2章以降は、腸内細菌がどんな働きをして、人間の体にどのように影響してくるのか、具体的な事例やさまざまな研究・分析データを出して詳しく紹介しています。例えば肥満の人とそうでない人では、腸内環境の様子が違っており、太りやすい菌、痩せやすい菌などについて、かなり研究が進められていることもわかります。老化や長寿に腸内細菌のバランスが影響していること、ストレスや不安を感じるとお腹が痛くなるという、脳と腸のつながりにも腸内細菌が関わっていることなど、気になる体のいろいろな問題と腸内細菌との関係を、最新の研究を元にわかりやすく説明しています。
第3章では、肥満に関連する腸内細菌について紹介されている。
第5章では「日本人の腸内細菌は世界的にみて、特殊?あなたの腸年齢をチェックしてみよう」とあり、日本人の腸内細菌は欧米人と実は大きく異なっていることが述べられ、そのタイプの分類とそれぞれの特徴、簡易なチェック項目が載っています。自分の腸年齢は一体どうなっているのか、知ってみたくありませんか? 腸年齢チェックを楽しみながら、自身の腸の健康状態について少しでも意識してもらえたら、と内藤さんは語ります。
健康維持のために、やっぱり一番気になるのは食事です。第9章では「健康な腸内細菌のために、なにを食べればいいのか 注目は発酵性食物繊維」と題して、腸内環境を整えるための食事の重要性について書かれています。食物繊維は人間の胃で消化ができないので、栄養学的には長い間重要視されていなかったそうですが、胃で消化されないおかげで腸まで届けられ、腸内細菌のエサになる大事な成分だということが今ではわかっています。
そして日本人は食物繊維が圧倒的に不足しているそうで、健康のカギとして注目されているのが、発酵性食物繊維。発酵性食物繊維とはどんな食べ物で、腸内細菌とどんな関わりを持つのか。詳しい内容についてはぜひ本書を読んでみてください。
腸活を始めるには欠かせない一冊。健康長寿を目指すために必要な知識や、より良い食生活を送るための多くのヒントが見つかりそうです。